Goodbye To
Eternal Regression

Gluttony ghouls

AD2200/01/07


「って、まーた人居ないし……」

 日も暮れかけてきた頃。漸く統制機構の前までやって来れたマキシマは慎重に扉を開けて中を伺い、その人気のなさに少なからず不信感を抱いた。
 先日は人払いでもしているのかと思って気に留めていなかったが、年も明け、カグツチで大規模な『爆発事故』があったというのに、その処理に追われる衛士が居ないと言うのは一体どういう事なのだろうか。警戒しつつも、マキシマは薄暗い支部内を進んでいく。

「……ユウキ=テルミ」

 長い階段に片足を掛け、まだ見えぬ最上階を見据えるようにしてマキシマは顔を上げると鋭く睨んだ。まるで『そこ』に居るであろう敵を威嚇するように。

「あんただけは、絶対に許さない。この世から葬ってやる――トリスアギオン、起動!」

 バサ、とセラミック製の翼がまるで鳥の翼のように滑らかに動き、ふわりとマキシマの身体を浮かす。そのまま高度を上げていき、マキシマは中空を飛んで屋上を目指していった。階段も長い廊下も全てをショートカットしていく。最初はゆっくりだった飛行スピードも飛んでいくうちにどんどんと上がっていき、屋上が目前となった頃にはそれこそ弾丸かと思う程の速さになっていた。

「――見えた!」

 屋上に繋がる大扉が見え、マキシマは勢いを乗せた足蹴を大扉に食らわせて強引に押し通った。
 けたたましい音を立てて鋼鉄製の大扉は左右に開き、高所特有の冷たくて強い風が一気に押し寄せてくる。それを受けながら、ゆっくりと減速したマキシマは着地すると周囲を見渡した。
 橙色に染まる空がはっきりと視認出来るのは此処が一番高い場所だからか、それとも一般に開放するような場所ではなく、落下防止用の柵の類が無くて邪魔な物が無い為か。
 滑らかな円形状のフィールド。それがこの統制機構最上階の屋上だった。
 落下防止の柵すらない、何もない場所。しかしその感想は入り口の向こう……屋上の最奥を視認した瞬間に消えた。
 巨大な黒い一枚の板の真上に、対象的に目が眩むほどに真っ白な球体が浮かんでいる。
 黒い板はモノリスだろうか。しかし闇を凝縮したかのような暗さを覚える。
 白い球体は翼を何重にも丸めて球体を象っており、大事なモノを抱えているかのように見える。
 ――まるで繭か卵のようだ。得体の知れない薄気味悪さと言いようのない既視感を覚え、マキシマはモノリスと球体から視線を降ろした。
 モノリスの手前。そこで佇んでいる細身の男の姿を認め、マキシマは鋭く睨みつけた。

 それはシスターを殺した張本人であり、
 ジンとサヤを攫った人物であり、
 ラグナの腕を落とした人物であり、
 己の胸を貫いた人物であり、
 大事な教会を燃やし、哄笑を撒き散らした人物であり、

「ユウキ=テルミ……!!」

 憎しみを込めてその名を呼べば、モノリスの前に立っていた人物は被っている帽子を押さえながらくるりと振り返った。その仕草は『ハザマ』のモノで。

「ようこそいらっしゃいました、『首狩り』マキシマさん。まさか、貴女が一番乗りとは……てっきりラグナ君辺りが乗り込んで来ると思っていましたが、これも『事象』が違うせいでしょうか? けれどまぁ、実にタイミングが良い」

「……アレの浮かんでる球体は何なの? あんたは何を企んでるの? ジンとサヤを奪った理由は何? ……あんたは一体『何』?」

 質問を立て続けに繰り出してくるマキシマに呆れるように、ハザマはやれやれと大仰に肩を竦めてみせる。

「そう焦らずに。そう急かさなくても説明してあげますってば。まあ、時間も余ってますし……手始めに『アレ』の説明でもしましょうか」

 ス、とハザマは手のひらを上にして頭上を指し示す。示した先はマキシマが指摘した球体へと向かっていて。釣られてマキシマの視線も再度その球体へと向かう。
 果たしてアレが本当に繭や卵なら、あそこから何が這い出て来るのか――そこまで考えて言い様のない不快感と寒気、そして既視感がマキシマを襲い、渋面を作ったマキシマは片手で口元を覆った。『ソレ』から距離を取るように数歩後ずさる。

「……待って……あれって、そんな……」

「おや、説明せずとも理解しちゃいました? いやぁ、流石は幾つもの支部を壊滅させているS級犯罪者だ。気付いちゃいました? 気付いちゃいましたよね?」

 マキシマがあの球体を見て嫌悪感を催す様が愉快なのか、ハザマは肩を揺らして笑う。

「ええ、そうです。あれは『窯』ですよ。現世と境界を繋ぐ唯一の道であり、黄泉へと続く門。貴女にはとても馴染みのあるものですよねぇ」

「だとすると……そう、やっとこの支部が無人な理由が分かったわ」

 依然と嫌悪感を顔に出したまま、マキシマはハザマを睨む。
 年末に統制機構へやって来た時から無人のカグツチ支部内。大きな事故もあったというのに、年が明けた後も静まり返ったこの場所。最初こそ人払いでもしているのかと思ったがどうやら違っていたみたいだった。
 確信を込めながら、マキシマはハザマを睨む。

「あんた――あの窯を動かすのに衛士を使ったんだ」

 繭のような球体は蓋。モノリスは地下にある筈の窯。
 どういう手段を使ったのか知らないが、ハザマは支部の衛士達の魂を集めて凝縮し、あの窯を稼働させたのだろう。
 しかしどうやら正解だったらしい。ハザマはクツクツと笑うと賛美の拍手を送る。

「いやぁ、お見事ですマキシマさん。皆さん実にいい仕事をしてくださいましたよ。何せこんな大きい階層都市の支部ですから、働いている衛士さんも大勢居まして。お陰でこの短期間でここまでの状態にまで持ってこれましたよ」

「胸糞悪くなってくる程の清々しさね。それで? あんたは何が目的なわけ?」

 統制機構の衛士は軒並みマキシマにとっての敵だ。特別同情の念などは湧いてこないが、それでもこの男のやり方には吐き気を覚える。

「目的? そんなの分かりきってるじゃないですか」

 帽子の陰から金色の眼を覗かせ、瞬きの一瞬で人を食ったような笑みから酷薄な笑みへと変わる。ぎらりと残忍に光る眼は獲物を見つけた蛇にも似ていた。

「素体の精錬だよ」

 がらりと調子の変わった、低くて不穏な声。それに対してマキシマは僅かに警戒を強めた。目の前にいる男はもう『統制機構情報部のハザマ』ではない。『六英雄の一人にして全ての元凶のユウキ=テルミ』だ。
 マキシマは目を細め、怪訝そうな表情をする。

「素体の、精錬……?」

 カグツチに在った第十三素体は既に『境界』へと堕ちた。他の番号の素体は別の階層都市で幾つかラグナと共に壊しており、タダでさえ数の少ない『完成品』の素体の残り数はゼロに等しいはずだ。
 だから、マキシマの中で現存して精錬に使用出来そうな素体というのが該当しない。そのまま怪訝そうにしているとテルミがさも面白そうに笑った。

「おいおいおい、まさか分からねぇってのか? あんだけ散々仲良しこよしでくっちゃべってったっていうのにか? ヒャハハハハ! 察しが良いのか悪いのか分っかんねーなーマキシマちゃんは!」

「……、ま、さか……」

 マキシマが後ずさる。まるでテルミから――いや、宙に浮かぶ繭から逃れるように。
 その様子が滑稽で、テルミはますます笑う。

「ノエル……第一二素体を精錬したって言うの!?」

 つい先日会った、屈託なく笑う無邪気な少女を思い返す。あの、陽だまりが似合いそうな、何処にでも居そうな女の子。
 幾ら少女といえど彼女は統制機構の衛士の一人であり、過酷な状況に身を置く事もあるだろうとは思っていたが――これは違う。こんなのは間違っている。
 それはきっと彼女だってそうだろう。自分の胸元に刻まれた『十二』の刻印を嫌悪していたノエルが自ら望んで精錬されるはずがない。確実にこの男が拐うなりして無理やり精錬したのだろう――サヤを連れ去った時のように。
 マキシマは背後に展開するトリスアギオンを転換させて一対の両手剣にすると駆け出し、思いっきり振りかぶった。
 狙いはハザマでも、テルミでもなく――繭の下に鎮座する、黒いモノリス。

「くっ……!!」

 高く振り上げた両手剣を左上から右下に掛けて振り下ろし、大きく袈裟斬りする。が、モノリスに刃が届く前に不可視の障壁に阻まれてしまい、バチッとした衝撃と共に跳ね返されたマキシマは元の位置までの後退を余儀なくされた。
 腕に走るビリビリとした痺れと痛みにマキシマは舌を打つ。

「何あれ……障壁!? どうなってんのよ!!」

「ヒッヒヒヒヒヒ! 無駄無駄、無駄だっつのマキシマちゃん! そんな玩具で傷つくようなヤワな窯じゃねぇって。その程度で傷がつくんなら、わざわざこんな場所に造るわけねぇだろうが! 大体、こいつは神殺しの為に俺様が直々に造った特別製なんだからよ!」

「神、殺し……?」

 旧い時代の書物の話だ。神話上の英雄はその力を以て全知の神をも殺したらしい。
 それと同等の事をやってのけると、目の前の男は言ってのけたのだ。それは誇張や冗談、比喩なんかではないと肌でマキシマは感じた。
 あの男は本気だ。本気でこの世界を統べし神を殺そうとしている。しかしこの世界における『神』とは、テルミの言う『神』とは何なのか。
 テルミは帽子に触れていた手を外し、大仰に腕を広げて見せた。

「時間も良い頃合だ。その眼でしかと見やがれ! 俺様が神を殺す様を……神殺しの剣が精錬される様をよぉ!!」

 テルミの動きに合わせるようにモノリスに蒼い筋が何本も入り、ゆっくりと明滅する。それはさながら繭の中に眠るモノの胎動のようでもあり、今から生まれ出る為の深い呼吸のようにも思えた。
 幾重にも翼が重なった繭は、まるで蕾が花開くように一枚一枚翼がゆっくりと開いていく。
 中から光が溢れ出し、目を焼くほどの光芒に思わず片手を掲げて影を作りながら、マキシマはゆっくりと降下してきた『ソレ』を見上げていた。見上げるしか出来なかった。
 それは目を伏せ、まるで胎内で眠る赤子の様に膝を抱えた状態で徐々に降りてきて、次第に背筋を伸ばしていく。

「この世は嘘、嘘、嘘、嘘、嘘だらけだ! 何もかもが造り物の世界だ! だからよぉ、俺が見せてやるよ……絶望って名の真実をなぁ‼」

 高らかなテルミの宣言が屋上に響く。

「スサノヲの御名において命ずる! 起きやがれムラクモ……いや、神殺しの剣『クサナギ』よ! 貴様のその刃で全ての嘘を薙ぎ払え!!」

 そうしてテルミの傍らに、淑やかに降り立った姿があった。
 繭の内側から現れた少女。彼女は白いケープを身に纏い、その下は肌を露出している服装にも拘わらずそこに一切の劣情も抱けず、あるのはただ無機質な冷たさのみ。頭には大きなヘッドギアを装着しており、そこの中央と彼女の胸元のパーツには『十二』の刻印が刻まれている。
 思わずマキシマは目眩を覚える。
 見覚えのある金髪、見覚えのある容姿。けれど決定的に違うモノがあった。

「嘘、でしょ……あれが、あんなのがノエルだなんて……!」

 声を荒らげるマキシマをじっと見つめる、蒼い目。ノエルはもっと穏やかで澄み渡った緑色の目をしていた。なのに今、目の前にいる彼女の瞳は蒼穹を連想させるほど蒼く、悍ましいまでに澄み切っていて。

「あいつはもうノエル=ヴァーミリオンじゃねぇ。μ―12……神殺しの剣クサナギだ! 俺様の命令に忠実な人形で、世界を滅ぼす事しか頭にねぇイカれたガラクタなんだよ!」

 ……こいつは今、何と言った?
 陽だまりが似合うあの子が、世界を滅ぼすしか頭にないガラクタだと?
 少し気弱だけれど優しいあの子が、テルミに忠実な人形だと?
 ――ふざけるな。

 ――――ふざけるな!!
 
「ユウキ=テルミィイイイイイイイイイイ!!」

 臓腑の底でダイナマイトが弾けた。
 激昂したマキシマはトリスアギオンを構え、床を蹴って疾駆する。テルミに肉薄し、そのまま斬り掛ろうとして――

「だーから、甘ぇつってんだろ」

 テルミが肩の高さで手を軽く振り、そこから虚空を食い破るように『蛇双・ウロボロス』が目にも止まらぬ早さで飛んで来た。けれど所詮は直線の攻撃。冷静に見極めたマキシマは体を僅かにずらしただけでウロボロスを回避。勝ちを確信しながら両手剣を振り上げ、
 ガチン、とその動きが停止した。

「なっ……!?」

 不自然な姿勢で停止するトリスアギオンと、トリスアギオンを持って掲げる腕。首を動かして見てみれば、ウロボロスと思われる鎖が両腕と腰、右足首に巻き付いていた。
 更に首を動かして肩越しに後ろを見ると、虚空を喰い破って召喚されたウロボロスが視認出来る。失念していた、とマキシマは奥歯をガリ、と噛んだ。
 何も、テルミが召喚出来るウロボロスは一本だけとは限らない。同時に二本、三本と召喚出来たはずだ。

「おいクサナギ、テメェは先に窯へ行け。そんでさっさとマスターユニットを……アマテラスをぶっ殺して来い!」

「……了解」

「なっ、テルミ、あんたねぇ……ぐ、っ!」

 細身のナイフが飛んできて、マキシマの脇腹に深く刺さる。両腕を拘束されている為、防ぐ事も外す事も出来ず、マキシマは苦悶の表情を浮かべた。
 ノエル――ミューは無機質な声で了承するとふわりと浮き、移動を始める。恐らくは命令通り地下の『窯』に向かうのだろう。それを止めたいが、マキシマにはその術が全部失われている。
 ミューの姿が見えなくなると、テルミはマキシマを放り投げて解放した。マキシマは脇腹に刺さったナイフを抜き捨て、素早く身を起こして治癒の術式を掛け始める。そうして体勢を整えたマキシマはトリスアギオンをしっかりと構え、臨戦態勢になった。

「絶対に許さない、ユウキ=テルミ!」

「掛かってこいよ、マキシマちゃんよぉ! あの夜からどんだけ成長したか、俺様が直々に確認してやるよ! 来い、ウロボロス‼」

 トリスアギオンを構えて駆け出し、応戦するようにテルミは連続でウロボロスを放つ。
 今度こそは油断しまい、とマキシマは確実にウロボロスを避け、或いは叩き落としながらテルミへ迫っていく。そうして再びテルミに肉薄したマキシマはトリスアギオンを振るうが、テルミが滑り込ませたナイフによって攻撃は防がれてしまった。

「烈閃牙!」

「っ……!」

 ナイフを持っていない方の腕が黒い気を纏い、マキシマに向かって振り下ろされる。剣状態のトリスアギオンで防ぎ切ったがマキシマは僅かに後退する。
 その隙を見逃すはずもなく、テルミはナイフと『黒い気』による連撃を叩き込む。

「おらおらぁ! どうしたよマキシマちゃん、威勢が良いのは口先だけかぁ!?」

「このっ……!」

 調子に乗らせておけば好き勝手言いやがって!
 マキシマは思い切って後退するとトリスアギオンを翼形態に転換し、素早く手を横に薙ぎ払う。動きに合わせて発射された硬質な羽の雨をテルミは難なく防いでしまうが、それはマキシマにとって計算の内であった。
 羽の雨がテルミの視界を覆っている間に再び距離を詰め、翼形態の状態で大きく斬り付ける。テルミからしてみれば視界の悪い中、突然大きく湾曲した翼が伸びてきたのだから驚愕しないはずがない。事実テルミは胸に深めの傷を作り、その痩躯がぐらりとよろめいた。
 斬られた胸元を押さえ、テルミが忌々しげにマキシマを睨め付ける。

「クソガキが……舐めた真似してくれるじゃねぇか……!」

 鋭く腕を振るったテルミの傍らから鎖が飛び出す。先程の物よりも数段早い。
 音と勘を頼りにトリスアギオンで飛んで来た鎖を打ち払った。甲高い音が木霊する。しかし次の鎖、そのまた次の鎖と連続して繰り出されるテルミの攻撃に次第にマキシマの動きが追いつかなくなっていく。肩に、腕に、頬に蛇頭の鎖が掠め、或いは喰らいついて鮮血を零して行く。

「ヒャーハッハッハッハ! おいおいマキシマちゃん、動きが鈍くなってきてるぜぇ?」

「っるさい!」

 幾ら傷が増えようともマキシマの目の宿る闘志は消えず、絶えずテルミを睨み続ける。
 しかし意思とは裏腹に、マキシマの体は限界が近かった。

「つっ……!」

 剣形態に転換させたトリスアギオンでテルミに斬りかかるも避けられ、更には失血のせいで目が霞み、ぐらりと体勢を崩す。
 攻撃後の大きな隙に加えて、不安定な体勢で硬直しているマキシマの体。この二つの大きな好機を逃すはずもなく、テルミのウロボロスが唸りを上げてマキシマに迫った。
 それはマキシマの首に巻き付き、彼女の体を床から数メートルの高さの宙に浮かせる。

「さあ……終いだぜ、マキシマちゃんよぉ。せいぜいあの世であのクソババアに宜しくしといてくれや」

「ぐっ……ぁ、テル、ミ……」

 首に巻きついているウロボロスがぎり、と音を立ててマキシマの首に食い込んでいく。
 マキシマは鎖を掴んで藻掻きながら何とか脱出しようとするが、爪はガリガリと表面の金属を滑るだけで。喉が詰まり、脳に酸素が行き届かなくて視界が霞んでくる。
 一際ウロボロスが締まると鎖を掴んでいた手がだらりと垂れ下がり、マキシマの頭ががくりと項垂れた。
 マキシマは気を失ったらしい。此処から更に首を締め上げてしまえばテルミの勝ちは明白だ。にやりと唇に孤を描いたテルミはウロボロスに命令を送ろうとして――

「……おやおや、随分と遅いご到着のようで」

 『ハザマ』として振り向いて支部内に続く扉を見やりながら、その場でウロボロスを消失させる。ウロボロスで吊られていたマキシマの体が冷たい床へ強かに落下するが、最早そんな『瑣末事』に興味はない。今は『主役』の遅い登壇と、これからの展開に強い興味と嗜虐心が刺激される。
 大扉を蹴破って来た男――ラグナは腰に下げている大剣に手をかけると、犬歯を剥き出しにして吠える。

「ユウキ=テルミ!」

「ようこそ、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ。いやぁ、てっきり貴方が最初に来るかと思っていたんですが、貴方の家族の方が早かった事にはいささか私、驚きましたよ。全く、家族面談なんて予定には入っていなかったはずなんですが……」

「テメェ……マキシマに何しやがった?」

 テルミとの距離を詰めながら問うラグナ。その声は僅かに殺気立っている。テルミは大袈裟に肩を竦めてみせた。

「いやですねぇ、そんなに殺気立たなくてもいいじゃないですか。マキシマさんにはちょーっと、眠ってもらっただけでして」

 「ほら」と言いながら彼は脇に退いてラグナに奥を見せる。
 テルミが邪魔で見えなかったその場所。ぐったりと床に倒れ伏しているのは紛れもなくマキシマであり。
 あちこちに怪我をし、血を流しているマキシマを見た途端、頭に全身の血が一瞬にして回ったかのような感覚を覚えたラグナは叫びながら駆け出した。

「……テルミィイイイイイイイ!!」

「良いぜ良いぜその表情! その顔が見たかったんだよラグナくんよぉ!!」

 大剣を抜き払い、テルミに迫って振り下ろすラグナと、細身のナイフでその攻撃を受け止めるテルミ。
 黒と緑が交差する。

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