If road infinite to choose
AD2200/01/XX
魔操船が飛び立つ中層部のポートの片隅に、賑やかな喧騒から逃れるようにしてひっそりと立っている人物が居た。その者は空が高く見える程の快晴にも関わらず暑苦しそうに外套を覆っており、フードを目深に被っている為顔すらも伺えない。しかし、フードから溢れ出ている金の髪が陽光を浴び、輝きを放っている事と全体のシルエットから何となく女性だろうという判別は付く。
その人物は注意深く周囲を観察し、人の目があまり自分の方向に向いていない事、巡回している衛士の一が疎らである事を確認し――マキシマはフードを取り払った。
魔操船のポートと言えば当然衛士の出入りも多く、指名手配されているお尋ね者ともなれば最も敬遠すべき場所だろう。
けれど今日は話が別だ。どうしても会いたい人物が此処に来る。一言だけでも良いから言葉を交わしたい。そう思い、マキシマは今日この場に来た。
そして姿を探して早数時間。結果は――
「……見当たらないんだけど」
見事なまでの空振りだった。
仕方ない。もう少し待ってみて、それでも来ないようであればカグツチを発とう。そう思いな
がらぼんやりと立っていると、見慣れた青い制服に身を包んだ金髪の衛士が目に留まった。
おや、と思っているとあちらも視線に気づいたらしく、マキシマを視認するや否や近くの衛士に何か声をかけてからこちらに向かって駆け寄ってきた。改めて近くでマキシマの姿を認めると、その人物はパッと笑顔を浮かべる。
「マキシマさん!」
「ノエル」
「良かった! カグツチを発つ前にまた会えて……」
マキシマに会えた事が相当嬉しいのか、満面の笑みを浮かべるノエルにマキシマも微笑を零す。
「私も、まさかノエルに会えるなんて思ってなかったから嬉しいな」
「そっ、そうですよ! どうして魔操船のポートにマキシマさんが……」
ノエルが驚くのも無理ないだろう。大体、衛士が少ない時間帯とはいえ指名手配犯がポートを闊歩している方がおかしい。
気まずそうに頬を掻きながらマキシマは呟く。
「あー、その………………ジン、居る?」
「キサラギ少佐、ですか?」
はて、一体目の前のマキシマと上司であるジンは一体どんな接点があるのだろうかとノエルは思案する。
依然と気まずそうに頬を掻きながら、聞こえるか聞こえないか位の声の大きさで、目を逸らしながらマキシマは言った。
「……義理の弟。ちょっと、言いたい事あったんだけど」
ノエルは表情を曇らせ、申し訳なさそうにする。
「その……キサラギ少佐は統制機構に戻っていないんです。あれからずっと行方知らずで、上層部は離反・反逆したと……」
「……ふーん、そっか」
マキシマの返答は実にあっけらかんとしていた。逆にノエルが呆気に取られ、ポカンとしてしまう。それを見てマキシマは苦笑した。
「だって、どうせイカルガで会えるんじゃない?」
圧倒的な信頼を寄せたマキシマの言葉にノエルはクスリと笑みを零す。
「信頼しているんですね、キサラギ少佐の事」
「なっ」
途端、マキシマの顔がまるで火をくべた暖炉のように赤く染まった。顔の赤さを誤魔化すようにマキシマは一気にまくし立てる。
「べっ、別にジンだから特別信頼してるとかじゃないし、ただ弟だから姉として思ってるだけだし、ラグナもイカルガに行くんだからどうせあいつも行くんだろうなって思っただけだし、ああもうっノエルってば笑いすぎ!」
「す、すみません。けどなんか、微笑ましくって……ふふっ」
「もう……」
片手でパタパタと顔を仰ぎ、赤みを引かせたマキシマはおもむろに外套のフードを被ってノエルから一歩下がった。
「じゃ、そろそろ私は行くから。それじゃね、ノエル」
「はい! ……あっ、約束忘れないでくださいよ、マキシマさん!」
「分かってるってば!」
そうしてマキシマは踵を返すと行き交う人々に溶け込みながらポートを後にする。
また会えるようにと願いを込めながら、マキシマの背中が見えなくなるまでノエルは見送り、手を振り続けた。
「ふわ、あ……あー、イカルガまで遠いなあ……」
大きなあくびをしながらもマキシマは乾いた荒野を歩き続ける。
マキシマがカグツチを発った日は見事な快晴であり、長距離の移動をするには打って付けの日だった。温暖な気候に時折吹き抜けてくる穏やかな風は眠気を誘い、寝まいとマキシマは目を擦って歩を進める。
この調子で天気が崩れなければ一週間程でイカルガにたどり着くだろうかと考え、マキシマはふと後方を振り返った。随分な距離を進んだ為、あれほど巨大だった第十三階層都市もミニチュア程の小ささになっていて。
カグツチに居たのは極短い期間だが、それでも色々な事があった。そう、本当に。しかしこの先行くイカルガには更に沢山の出来事が待っているのだろう。いい意味でも、悪い意味でも。
因果の集約する地・連合階層都市イカルガ。その全てに決着を付けるべく、マキシマはまだ見えぬ彼方の地を見据えながらマキシマは足を進めた。 Back