Goodbye To
Eternal Regression

Crystal Forest

 その翌朝、唐突な来客があった。応対に出たマキシマがぱちくりと玄関先に立つ人物を見つめる。

「テイガー!?」

「ココノエからの要請でやって来た。入っても構わないだろうか?」

「えぇ、あっ、うん。どうぞ……?」

「邪魔をする」

 玄関扉を限界まで広げ、巨体のテイガーを教会へ招き入れる。外に出ているラグナ、ジン、ノエル、レイチェルをセリカが大慌てで呼びに行った。
 お茶は飲まないだろうと思い、取り敢えず話が出来る場所へ移動する。間もなくしてラグナ達が戻ってきて、聞けばノエルの記憶を取り戻しに行っていたみたいだった。色々あったものの、ノエルは無事に欠けた記憶……ミューとしての記憶を取り戻したらしい。
 戻ってきた各人は思い思いに長椅子に腰掛けたり壁に寄りかかったりして話を聞く体勢になる。そうして頃合いを見計らってテイガーは通信機を取り出し、ココノエに繋げた。ココノエの現状、準備の進捗を聞く。マキシマ達は一度ヤビコに戻ってからレクイエムのところへ転移する予定らしい。そしてレクイエム破壊とイザナミ撃破を行う。
 ココノエが通信を切るとテイガーが周囲をぐるりと見回す。

「どうやら、支度の時間は必要なさそうだな」

「はい、いつでも大丈夫です!」

 ノエルが表情を引き締めて言う。他の皆もそれぞれが準備万端といった様子でテイガーを見ており。セリカが手を合わせる。

「じゃあ、行こっか」

「オッケー、行こ」

 頷いたマキシマが長椅子から立ち上がって玄関へ向かい、ラグナ達も移動を開始する。
 外に出て扉を閉める間際、郷愁に引っ張られるかのようにマキシマは背後を振り返った。もう二度と見られないと思っていた景色がそこにある。

「…………」

 引き返したくなる想いを堪えてマキシマは扉を閉めた。簡素な木製のくせに、やたらと重く感じる。名残惜しいが、これは幻影なのだ。大事な思い出の詰まっている『本物』はとうに焼け落ちて、今も静かな丘の上で佇んでいる。

「……この教会の姿を見られるのは、これが最後かもな」

 閉じられた扉を見つめながらラグナがぽつりと呟く。傍らのレイチェルも背後を一瞥する。

「そうね。本来の世界に戻ったならこの教会は跡形もなく焼けた後……惜しい?」

「んなわけねぇだろ。懐かしいがこれは幻だ、本物じゃねぇ。あった事から目を背けて、ままごとする趣味はねぇよ」

 鼻で笑い、颯爽とラグナは歩き出す。
 そうだ、自分達はいつだってそうだったではないか。起きた事やあった事を悼み、悔やむ事はしても立ち止まったりしなかった。いつだって自分とラグナは前を見据えて、未来を掴んできた。ならば今も、これからも。
 小さく笑い、後を追うようにマキシマも歩き出した。他の皆も歩き出す。しかしその中でセリカだけが見守るようにその場に立っていて、不思議に思ったラグナが振り返り――目を見開いた。
 微笑みを浮かべるセリカ。その彼女の輪郭が光に溶けるように透けていて。

「……ねえ。ノエルちゃん、マキシマちゃん、ジン、ラグナ。みんなの世界が見られて嬉しかった。一緒に過ごせて楽しかった。辛い事も悲しい事もあると思う。でも貴方達は強くて、優しくて、とっても『いい子達』よ。振り向かないで、立ち止まらないで、前を向いて歩きなさい」

 背後の教会と彼女の物言いが、在りし日のシスターを想起させる。マキシマの記憶の中のシスターは老女で、目の前の彼女は年の変わらない少女だというのに。

「頑張って。負けないで」

 いよいよセリカを取り囲む光が強くなり、彼女の輪郭が朧げになってくる。朝日に溶けていく中で、セリカが確かに笑う。

「いってらっしゃい」

 別離の言葉ではなく、別れを惜しむ言葉でもない。実に彼女らしい見送りの言葉を贈り――閃光のように一際眩く光った後、心優しき魔法使いはこの世から姿を消した。

「っ、セリカ……」

 マキシマは消えゆく光に手を伸ばしかけ、一瞬躊躇うと頭を振って前を向いた。慮る顔でジンが見つめてくる。

「……姉さん」

「行こ。……セリカに言われたでしょ、前を向いてって。それに私達は……未来を掴まなきゃいけない」

 此処で立ち止まるのは容易だ。しかし止まってしまえば確実に『滅日』は起きて、元の世界も自分達の未来もない。ならば堪えて、想いを抱いて、託されたものに背中を押されながら、前に向かって歩き続けるしかないのだ。
 感じた事のある目眩を一瞬覚え、目を閉じたマキシマが次に見た景色は見覚えのある総領主室だった。意識を切り替える。ここからはレクイエム破壊とイザナミ討伐の事に集中せねば。

「戻ったか。ココノエから話は聞いた。本当によく頑張ったな、お前ら」

 カグラが口を開く。しかし一人足りない事に気づいて僅かに目を見開いた。

「セリカはどうした?」

「……」

 マキシマ達が沈痛な面持ちになる。誰もが押し黙って言わずとも結末が分かる中、言葉少なにラグナが口を開く。

「……セリカは『帰った』よ」

「――そうか」

 表情とその言葉で理解したのだろう。カグラも表情を引き締めて頷いた。ココノエも何かを思うように瞳を閉じている。

「ココノエ……あんたのかーちゃんと、セリカと約束した。この世界を助けるってな。だからこの事態をなんとかするのが俺の役目だ、早速話をしようぜ」

「フン……当然だ。お前も少しは成長したようだな」

「ただまあ、ちょっと待て。すぐに『全員揃う』。話はあと二人が来てからにしようぜ」

「二人……?」

 マキシマが不思議そうに復唱した直後、タイミングを見計らったように扉が叩かれる。

「カグラ様、お二人をお連れしました」

「おっ。言ったそばからお出ましだ」

 扉が開かれる。ヒビキの先導で総領主室に通された白い戦闘服に身を包んだ少女と白面の武者を見、ジンが驚きの声をあげる。

「ツバキ!? それに貴様はハクメン……!」

「……其の身体でまだ生きていたか、ジン=キサラギ。トリニティ=グラスフィールの力を借りたとは言え、存外しぶとい男だ」

「しぶといのはお互い様だ……贋作め」

 二人の視線が交差する。よくバチバチと睨み合うとはいうが、この二人が睨み合っていると散るのは火花ではなくて吹雪のような気がする。耐えかねるようにマキシマは両手を叩いて注目させた。

「はい、そこまで! 皆で協力するんだからいがみ合わないの!」

 ハクメンとジンが同時に両者から視線を外す。ジンは兎も角、圧倒的な風格を漂わせているハクメンまでもが押し黙るのはちょっと面白い。

「話は終わったか? だったらそろそろ話してもらおうか。イザナミを止める為に具体的にどうするのかを」

「それは――」

 ノエルが切り出す。ココノエが提案した作戦よりも被害の少ない、誰も犠牲にならなくて済む方法を。きっと聞いていたもの全員が驚きの表情をしただろう。
 有り得ないと言いたげにココノエが息を吐く。

「ノエル=ヴァーミリオンの中にイザナミを……受け入れるだと……?」

「はい」

 カグラが腕を組む。

「どういう事だ、ノエル。それは俺達『資格者』がマスターユニットの中にお前を見た事と関係があるのか?」

「記憶が戻った時、同時に他の色々な事を思い出したんです。『本当の私』の事も……」

 マキシマ達がマスターユニットの中に見た『ノエル』は第一素体、全ての始まりとなった少女だ。彼女が神と成った瞬間からこの世界は方向性を定めた。
 そしてノエル達はそのクローン。それぞれが一つの魂から分けられた『分身』であり、ノエルは『第一素体』でもあり『サヤ』でもあり、逆も然りであり。
 そしてノエルの性質は限りなく『第一素体』に近い。それはもう――分身なんて言葉ではなく『同一存在』とも言える程に。共に『ヒトでありたい』と渇望した人形。
 マスターユニットのドライブであるイザナミにも同等の事が言え、生きているノエルがイザナミと同化すれば完全なる『死』が否定される。
 
 ――つまり『イザナミを殺す』事が出来るのだ。

 カグラが厳しい表情で思案する。

「成る程、確かに可能性はある……が、『確証』は無いんだろ? ならそいつは承認出来ねぇな。ノエル……イザナミを受け入れたその時、お前が無事でいられる保証はどこにある? 失敗したらお前はどうなる? もしかしたら逆にイザナミに身体を奪われる可能性だってあるんだぞ。そうなればお前の意識は消えて……俺達の敵になる」

 最高の素体。神殺しの剣。世界の破壊者。
 その第十三素体とイザナミの力が融合したらなんて想像は、この場の誰もが容易に出来ただろう。

「……そう、ですね……でも聞いてください」

 一瞬怯んだようなノエルだったが、それでもグッと顔を上げると話を続ける。

「私の身体の中にはオリジナル……『第一素体』の魂を共有している……イザナミの器となった『サヤさん』の記憶も混在しています。私が持っているサヤさんの記憶や感情は半分だけですが、同時にイザナミの中にも『半分』残っている筈なんです。それも相当混ざった状態で……イザナミの、彼女の言動を見ていれば分かります。ラグナさんとマキシマさんもそう思いますよね?」

「……確かにそうだな」

「……うん。あいつの中にある『サヤ』の比重は相当大きい」

 イブキド上空で会った時の事を思い出す。立ち居振る舞いこそ違えどマキシマを「姉さま」と呼ぶ様子や、口ぶりは確かにサヤのもので。

「そのサヤさんの『魂』があるのなら……大丈夫です。これは『彼女』を救う為の……私にしか出来ない事なんです。だからこそ、私は負けません。イザナミに身体を奪われたりもしない。そしてこの場所に帰ってきます。帰ってこなくちゃいけない理由が……私にはありますから」

 真っ直ぐな言葉。真っ直ぐな意志。
 観念したようにカグラは髪を掻いた。

「はぁ……分かった、ただし約束しろ。イザナミに絶対負けないとな。これは衞士最高司令官でもある俺の命令だ」

「はい……! ありがとうございます、カグラさん!」

 エンブリオを経由したレクイエムの元への侵入方法、予想しうる障害――レリウス、テルミ、アズラエルの対策、各々の役割。それらを話し合い、着々と最後の準備は進んでいき。
 ノートパソコンのキーボードを叩いていたココノエは顔を上げる。

「――準備はいいな?」

 皆の了承の声の後、ブン、と機械的な転移を開始する音がした。そうして一瞬の暗転を挟んでマキシマの視界に映ったのは――

「空ぁあああああ!?」

 ゴウゴウと風が唸り声を立てて吹き抜けていく。内蔵が下に引っ張られているかのような感覚。レクイエムの座標に直接乗り込むとは言っていたが、ココノエは一体どんな高高度に転移させたのか。

『そうそう、ラムダの保護障壁から出るなよ。一瞬で吹き飛ばされるぞ』

「頼む~~命に関わる~~大事な事は~~転移する前に~~言ってくれ~~!」

「い~~や~~~~!」

 カグラの情けない声を聞きながらどんどん落下していく。
 マキシマが叫んでいると更にココノエの通信が入ってきた。現在地はエンブリオの上空約四万メートル。そんな高高度、トリスアギオンでも飛んだ事がない。
 二百八十秒のスカイダイビング。ココノエから指示が何度か届くが、風圧のせいで返事をするのが精いっぱいだ。平然としているのはハクメンとミネルヴァくらいだろうか。ラムダの防壁のお陰でぐるぐると自由落下しなくて良いのは助かったが、速度を乗せた落下感は気持ち悪い。

『とりあえず計画は以上だ。とにかくミネルヴァがレクイエムを停止させた後は、何が起こるか予想出来ない。基本的にカグラの指示に従い、それ以外は各自で対応だ』

「了解だ~~!」

「カ~……カグラさん~……あの~苦しい……かもです~……」

 カグラに抱えられてるノエルが弱々しげに声を上げる。

「あぁ~悪い悪い。でもなぁ~~……突入前に~~離れるわけにはいかないし――ぐばはッ!?」

 瞬間、二方向から剣がカグラ目掛けて振り下ろされる。大分本気の、殺意の籠もった一撃だ。

「……うちの妹が苦しいって言ってんだろ……ジジイ……」

「次やったらイザナミの前にあんた殺すからね」

 剣を収めながらラグナとマキシマが殺意を宿した目でカグラを一瞥する。うろたえるノエルの手をマキシマが引っ張り、カグラから隠すように庇った。
 そんなこんなで突入三十秒前になり、合図と共にラムダがイデア機関でエンブリオに穴を開け、ツバキが十六夜で結界を張る。ガラスを叩き割るような音と共にラグナ達はエンブリオに突入し――

『侵入に成功したか? 時間がない。至急作戦行動に移れ! 応答しろ! 侵入に成功したか⁉』

「ココノエ、聞こえてるかココノエ! おいココノエ!」

『カグラか? 侵入には成功したのか? 状況を報告しろ!』

「え? ……なにこれ、何なの?」

『ん? ツバキか? 結界の展開に何か問題でも起きたのか!?』

「何だよこれ……どうなってんだ一体?」

『今度はラグナか。個別に話すな! 既に三十秒経過しているぞ!』

「ちょっとココノエ! 私達レクイエム上空に転移したんでしょ!? だったらなんで――」

 各々が困惑を口にする。
 しかし困惑するのも無理はないだろう。マキシマは眼前の光景に広がる景色を見て、声を張り上げる。

「どうして私達、イカルガに居るのよ!」

『イカルガだと? おい、イカルガのどこだ!? とにかく場所と状況を説明しろ! 他の者達も一緒か?』

「ココノエ博士、ノエルです! 此処はイブキド跡地だと思います。ラグナさん、ミネルヴァと一緒で、他の方達は見当たりません!」

『イブキド跡地!? ……おいカグラ、聞こえるか? お前達はどこに居る?』

「俺はジンと一緒だ。場所は……カザモツだな。他の奴らは無事なのか?」

「私はハクメン様と一緒です。場所はヤビコだと思います」

 マキシマは周囲を見回す。一面に雪が積もったスノータウンは、つい最近訪れた場所の景色と全く一緒で。

「私はアキツ。誰も居ないわ、一人」

 ため息を吐き、マキシマは頭を掻く。一瞬取り乱したが全員の所在が分かれば、血の上った頭も冷静さを取り戻すというものだ。
 レイチェルの姿が見当たらないのと分散してしまったのが気がかりだが、ココノエの言い分ではきちんとマキシマ達は時間硬化範囲の中に転移しているらしい。一体どういう事なのだろうか。
 スノータウンの寒さに腕を擦りながら考えていると、マキシマの眼前にゆらりと人影が揺らめいた。反射的にトリスアギオンを喚び出して構えれば、それは蜃気楼のように揺らめきながら人の形を成していき。

「イザナミ……!」

「やっと来たか……愚か者共。待ちくたびれたぞ……」

 幻影が嗤う。トリスアギオンを振り下ろしてもこれは本体ではないのだから意味がないと分かりつつも、どうしても苛立ちは抑えきれない。
 時間硬化内は何人も、どんな事象も停止している筈だ。なのにどうしてイザナミは動いて、こうして幻影を出現させる事が出来たのか。
 イザナミの口角が弧を描く。自分に時間硬化など意味がないと。せいぜい時間硬化の空間内に留める程度の効果だと。そうして硬化した時間の中で暇つぶしに『場』を作ったと。
 『場』とは。全容は不明だが、どうせイザナミの事だ。ろくでもない仕掛けを施しているのだろう。
 腹立たしい。時間稼ぎのようなマネを――
 はた、とマキシマが気づく。

「あんた……もしかして手を出せないんじゃない?」

 眼前の幻影の眉がピクリ、と動く。

「『場』を作ったのも、私達を分散させたのも……時間硬化が解けるまでの時間稼ぎなんじゃないの? そうやって私達を足止めして、レクイエムの爆発を待ってる」

「……賢しい姉さまだな。そうだ、業腹だがレクイエムをすぐに爆発させる事は出来ぬ。だからこそ、この舞台を作った。まあ、これも『最後』の舞台だ。絶望に身を躍らせる様を余に見せてくれ。ククククッ……」

 愉しげな声を残し、イザナミの幻影は空気に溶けていく。
 さて、どうするか。考え込んでいるとココノエの声が飛んでくる。

『お前らよく聞け。優先順位は変わらない、レクイエムの爆破阻止が最優先だ。だが先程の話から推測するなら、レクイエムはイザナミが確保している可能性が高い。つまりイザナミを見つければ、レクイエムもそこにあるはずだ』

「……もし無ければどうする? それに僕たの認識出来る空間にイザナミがいるとは限らないぞ」

『構造を調べたが、内部は断片的な『空間』の寄せ集めだ。いくらイザナミでもその空間内に更に、別の空間を構築するのは難しいらしいな。だから認識出来る形で、イザナミもレクイエムもその空間内に居る。ならば、イザナミが直接守っている可能性が最も高い。
 だがその断片的な空間は、お前達の認識している空間や場所と連続的に結合されていない。なので集合は無しだ。そのままイザナミ捜索を開始しろ。もし誰かが発見できれば、座標からミネルヴァをそこまで誘導できる。
 いま現在単独のマキシマ以外、個人での行動はするな。もし推測が正しければ、レクイエムを止めるにはまずイザナミを何とかする必要がある』

 タイムリミットは三時間。この広大なイカルガの地からたった一箇所、どこかで愉しげに待ち望んでいるイザナミとレクイエムを探し出すのは、砂漠に落とした針を探す行為と同義だった。たった三時間で見つけられる筈もない。
 ――本当に? マキシマは思案する。

「イザナミが無作為に、適当な民家に身を隠すなんて考えられない……」

 ココノエによれば、レクイエムの質量は変わらない――つまり、あの巨大なままどこかに安置されている可能性があるらしい。ならばある程度の面積を取れる場所にある筈。そう考えれば候補は自然と限られてくる。イブキド跡地、カグツチ頂上の祭壇、ワダツミ城、各支部の地下にある窯……この辺りか。
 そう考えていると各チームも同じ事を考えていたのか、それぞれがイブキド跡地やカグツチの祭壇へ行くとココノエを経由して連絡があった。ならば自分は窯へ確認しに行くと告げ、マキシマは人気の失せた街を走る。イザナミが作り出したこの空間は『寄せ集め』故に連続性がないと聞いていたが、走っていて実感する。アキツの市内に入ったかと思えば、カザモツの郊外に出たりする。てんでバラバラの絵を無理やり繋げたかのような、気味の悪い感覚だ。
 自分の足音だけが響く。そんな中、ソレは唐突に姿を現した。

「探しました。マキシマ=ジ=グリムリーパー」

「……!」

 急停止し、トリスアギオンを起動して背後で展開させる。この時間硬化した空間で自分達以外の活動出来る人間など、イザナミクラスの怪物以外居ないのだ。マキシマは眼前に現れた人物を睨む。
 薄い金髪を三つ編みにした、小柄な少女だった。確実に初対面だが、その風貌はどこか馴染み深い形をしていて。
 ……ああそうか、サヤや素体と似ているのかとマキシマは気付く。一見無害そうに見えるが、纏う雰囲気から只者ではない事が察せられた。

「……あんた誰?」

「私はEsエス。『エンブリオ・ストレージ』。蒼の門の守護者であり……『調停者』です。貴方を探していました。『蒼の解放者リベレーター』」

「蒼の……解放者リベレーター……?」

 『蒼の継承者』でも『蒼の守護者』でもない、初めて聞く単語にマキシマは眉を顰める。

「解放者、貴方の『選択』を確認する為に来ました。『蒼』を求めるか、『滅日』を受け入れるか――」

 エス、と名乗った少女の蒼すぎる瞳が細められる。

「――第三の選択を取るか」

「その選択肢は……他の資格者達にも与えられてるの?」

「その質問に対する回答は『イエス』であり『ノー』でもあります。第三の選択を与えられているのは貴方だけです。解放者」

「はぁ~~……」

 頭を掻く。急がなければならないが、彼女をどうにかして超えないと先には行けなさそうな雰囲気だ。話を無視して通り過ぎるのを許してくれそうにない。問答無用で押し通れば、彼女は迷いなくその手に握る巨大な剣をマキシマに向けるだろう。
 『蒼』は要らないが、『滅日』で安々と生きるのを諦められる程、素直な性格もしていない。
 仕方ない、とマキシマはエスを見やる。

「……話だけでも聞いてあげるよ。だけど時間が無いから、手短にね」

「では――」

 囁くように静かに、だけどはっきりとした口調でエスは告げる。
 マキシマに与えられた『選択』の全てを。最後の選択勧誘を。

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