Iconoclast
アキツの窯、ヤビコの窯、カザモツの窯と回ってみたが、レクイエムとイザナミの姿かたちすら見当たらなくて。
「くっそ……何処も空振りか……」
マキシマは壁に手を付き、ぜいぜいと乱れた息を整える。人の姿を見かけないので申し訳程度に代金を置いて水を買って飲み、小休止する。
此処まで探して見つからないのなら、残る窯は一箇所しかない。それでも無ければ他の資格者達が向かった場所にレクイエムを隠したのだろう。
水の入っていたペットボトルを捨て、息を整えたマキシマは再び走り始める。トリスアギオンが無ければ一人で四ヵ所も窯を回る事は難しかっただろう。飛んだお陰で大分時間と体力を節約出来ている。
カグツチの支部までやって来たマキシマは重たい扉をいつの日かのように蹴破り、まっすぐに昇降機まで向かう。そうして地下にやって来たマキシマは駆け出すが、自分より前を走る人影を見つけて咄嗟にトリスアギオンを喚び出した。柄を握り、警戒する。
向こうも自分以外の足音に気付いたのだろう。駆ける足を止め、対峙するように振り返る。
互いが互いを目に留め、構えていた拳と武器を解く。
「マキシマ……!?」
「ナオト!? あんた、なんで此処に……」
ナオトは一方を指差す。
「あそこの崩れた横穴から出てきたんだよ」
指差した方を見れば、確かに壁の一部がぽっかりと口を開けていて。その向こうには崩れた瓦礫が散乱している。まさか支部の地下に直通へ行ける通路や部屋などを統制機構側が作るとは思えず、恐らく転移であの場所に飛ばされて来たのだろうと察せられる。
とにかく、此処で再会の喜びを分かち合うような時でもない。二人は同じようなタイミングで窯へと駆け出し――
「……ッ!?」
ふわり、と。
貪欲そうに口を開けている窯へと身を躍らせているレイチェルの姿が、映った。
トリスアギオンで加速して飛んでも、手を掴むのが早いか煉獄の炎が彼女を舐め上げるのが早いかという瀬戸際。間に合わないかも知れないとマキシマが諦めかけたその一瞬、
――グン、と加速して横を追い抜いていく姿があった。
「……はぁ、はぁ……っ、間に合った……。つかテメェ、何してやがる!」
窯の縁に手を掛けて反対の手を伸ばし、レイチェルを掴んだナオトは一気に引き上げる。ぐるぐると何重にも巻かれた拘束陣に、ぐったりと瞼を落とした姿は普段の彼女からは想像出来ない。
ナオトよりやや遅れて辿り着いたマキシマは、その傍らにハザマとラグナ、少し離れたところにジンが居るのを目視した。ジンは何やら障壁のようなものに阻まれてこちらに来られなさそうだが……。
「おい、大丈夫か!? って、何だこの拘束陣? しっかりしろよ、こんな雑な拘束陣も解けねぇのか? ったく……」
「は? いや、結構複雑な……って」
パッと見た限り、何秒か一回に解除コードが変わるタイプの拘束陣のようだ。そしてマキシマ達咎追いが使うものよりも幾分か複雑なコードが必要となるもの。それが何重にも巻かれているのだ。解除するにはそれなりの時間が必要だと思っていたのだが、ナオトは紙で出来たゴールテープを千切るかのような気楽さで拘束陣を掴んで引っ張り、呆気なく壊してしまった。
ふるり、と長い睫毛が揺れてレイチェルは瞼を持ち上げる。そしてすぐ側に居るナオトを見、起き上がりながら目を見開いた。
「っ……貴方は……黒鉄ナオト!? 何故此処に……」
「何故って言われても……まあ、あっちに横穴があったから入ってみたらマキシマと合流しして、何かヤバそうな場面に遭遇して……。とりあえず、あんたは大丈夫そうだな」
「え、えぇ……。はっ、そんな事よりも、ラグナは!?」
そこでマキシマはハッとする。マキシマとナオトが来る前に戦闘が繰り広げられていたのは分かるが――
「全く……余計な邪魔が……グフッ!」
「……何よそ見してんだテメェ……死ね、今すぐ死ね」
――尋常じゃない程の殺気を溢れさせ、無抵抗なハザマに何度も大剣を振り下ろす異様な姿のラグナ。殺気と同じように『黒き獣』の気配も膨れ上がっていて、恐怖がマキシマの背筋をぞわりと撫でていく。
本能がガンガンと警鐘を鳴らしてくる。――いまラグナを止めなければ、取り返しのつかない事になると。
「ラグナ、お止めなさい! 私は無事よ!」
「死ね……死ね……死ねっ! オ……オオオオオオ……」
しかしレイチェルの声すら届いていないのか、ラグナはひたすら大剣を振り下ろすだけだ。ハザマの方も抵抗する気力すらもう無いのか、無抵抗でその刃を受けている。
異様な様子のラグナを見、ナオトがこそりと耳打ちする。
「おい、何かヤバくねえかアイツ?」
「駄目……完全に怒りで我を忘れている……。このままでは……全ての『可能性』が失われてしまうわ……!」
「っ……ラグナ!」
マキシマが名を呼んだところで正気に戻る筈がなく、ラグナはハザマを延々と斬り続けてる。
らしくもなく、焦った様子でレイチェルが呟く。
「此処は……このカグツチにある窯は『黒き獣』が初めて生まれた場所なのよ。もし此処で再び彼が黒き獣になれば……今まで生まれた『可能性』は全て失われる……未来永劫にね」
その言葉を耳にした瞬間、ナオトの脳内にラケルの声がリフレインする。
『可能性を助けて……世界を救いなさい!』
「未来……可能性、ね……」
眼の前の男が『可能性』だと言うのなら。彼が怪物と成り果てる事でそれが潰え、ナオトの世界もレイチェルも……大事な友達や家族が失われしまうのなら。
ナオトが拳を強く握り込む。
「そうです、そうですよラグナ君! 憎しみで、その憎悪で……『僕』を殺しなさい!!」
「ガァアアアアアアアアアアア!」
重傷を負っているはずなのに、陶酔の笑みを浮かべるハザマ。その言葉に当然だと言うようにラグナが渾身の力を込めて、大剣を振り上げ――
肉質のあるモノを叩き切るような音ではない、硬質的なモノ同士がぶつかる音が木霊した。
砂煙が舞う。
砂煙がゆっくりと晴れていく中、次にラグナやマキシマが視認したのは、膝を突くハザマの前に立ち塞がるナオトだった。
「あんたにこいつは……殺させねえ。……って言っても、話が通じる感じじゃねぇよな」
「ナオト……あんた、髪が……!」
マキシマがハッとする。
そう、ナオトの髪色が変わっている。よく見慣れた白髪へ。開かれた瞳も血のように赤く、ラグナと対峙しているとまるで鏡の中を覗き込んでいるみたいだった。元より纏う気配が似ていると思っていたが、まさかここまでとは。
「でも言わせてもらう。あんたが敵を倒すのは『救う』為なんだろ? ……憎しみで倒したら、駄目だ。それにどうやら……あんたは俺の『可能性』みたいだからな」
獣のようにラグナが唸る。それを不敵に笑って見返し、ナオトは出現させた血液を拳に纏わせた。
「おら、来いよ。俺があんたを『助けて』やる」
一際大きく吠えたラグナが駆け出し、ナオトも突進をして激突をする。もしナオトが劣勢になりそうなら自分も参戦しようと様子を窺っていたマキシマだったが、どうやらそれは杞憂で終わりそうだった。
大剣と闇の力で大ぶりな攻撃を繰り出すラグナに対し、ナオトは小刻みに拳や蹴りを繰り出しては大剣の攻撃を避け、或いはいなしている。その様子は傍目から見ても戦い慣れているという印象を受ける。
――それにしても、だ。
マキシマは激しい戦いを繰り広げている二人をじ、と観察する。
大剣と拳。闇と血。異なる武器を使っていると言うのに、ラグナが一人で鏡に向かって攻撃しているような錯覚を覚えてしまう。
対面しているのにしていない。そこに居るのに居ない。存在すると片方の存在を薄くする者。『異邦人』と『黒き獣』。やはりナオトは、別世界の――
そこまで考えた時、一際大きな衝撃音が聞こえてマキシマはハッとする。同時に後退して距離を取ったラグナとナオトが睨み合っていた。
ナオトがビリビリと痺れた腕を振るう。
「ってぇ……シャレになんねぇ! 何なんだよこいつ、滅茶苦茶強ぇじゃねぇか!」
対するラグナも息を整える。その呼吸にもう獣の気配は微塵もない。
「……ブハッ! あ~、何だこれ、この感覚……。鏡を殴ってるみてぇでマジ気持ち悪ぃ」
「散々ぶん殴っといて何言ってんだ!!」
「だから途中から手加減したつもりだったんだけどな?」
「ケッ……。でもまあ、目は覚めたみてぇだな」
舌打ちをしながらもニッと笑えば、ラグナも口角を上げて笑う。ラグナは頭をガシガシと掻き、
「悪いな……とりあえず礼は言っておく」
ぶっきらぼうな礼にナオトは軽く首を横に振った。
「いいよ別に。俺は約束を果たしただけだしな」
誰との、とは言わない。彼女が見ているとも分からない。それでも――もし彼女が見ていたとするのなら、よくやったと笑ってくれるのだろう。
傷だらけの体を引き摺りながら、レイチェルが一歩前に出てラグナと向き合う。
「……ラグナ」
「……すまねぇ、また『コレ』に喰われかけた」
ラグナの右腕の『蒼の魔道書』に視線を落としたレイチェルがほう、と息を吐く。もう先程のようにどす黒い闇を纏ったりはしていない。
「もう……大丈夫みたいね」
「それは俺の台詞だ。お前こそ大丈夫かよ? ったく……ハザマなんかに捕まりやがって……ってハザマ!」
思い出したラグナの声に全員がハザマへ目をやる。息も絶え絶えな様子だが、それでもハザマはいつものように口元に笑みを浮かべながら立ち上がろうとしていた。
「グフッ……全く、余計な事を、してくれたものです。下らない……実に下らない……クククッ」
「随分楽しそうじゃねぇか。『助けて』やったんだから感謝くらいしろよ」
「助けた? 貴方が、私を? ……クククッ、ハハハハ! 成る程、これは実に……面白いですね……グフッ……」
ゆらり、と幽鬼のようにハザマが立ち上がる。腕から、胴から、体の至るところから血がボタボタと垂れているが気にした様子はない。
――気味が悪い。マキシマが渋面を作る。
「どうやら……まだ『未来』が残っているようですね」
「……未来?」
ナオトが訝しむ。それは、何を指し示しているのだろうか。
と、同時に薄く張られた氷を叩き割るかのような音がし、マキシマ達は振り返る。寒風のように冷やされた風が吹き込んだ。
「兄さん、姉さん!」
「ジンか。ったく遅ぇよ!」
「……兄さん。殺すよ?」
ジンが障壁を叩き斬ってやって来たようだった。
ラグナが右手を持ち上げ、パキパキと指を鳴らす。
「……ハザマ。もうテメェの『戯れ言』には惑わされねぇ。お前も此処で『終わり』だ」
「終わり……そうですか、終わりですか。ですが……貴方に『救われる』なんて……死んでもお断りです。私も碧の魔導書ですからね……」
窯へ向かって歩いて行く。傷だらけだというのに微塵もそんな雰囲気を出さず、ゆったりと歩いて上等そうな革靴の音を響かせ、大きく手を広げて見せる様子は演説をする者のソレだ。
その最中。一旦足を止めたハザマは肩越しに振り向き、口元に三日月を浮かべる。
視線の先は警戒を顕にユキアネサへ手を掛けているジン――ではない。その背後に浮かぶトリニティだった。
「トリニティ=グラスフィール……。『僕』は貴女のその、慈愛と憐れみの目が……本当に嫌で仕方ありません」
「……っ」
トリニティは何かを言いかけようと口を開いて、悲しそうな表情と共にキュッと唇を結んで無兆鈴を強く握り込む。その姿を見、ハザマは乾いた笑みを吐いた。
――ああ、本当に。そういうところが嫌いなんですよ。『僕』は。
カツン。いよいよ窯の縁までやって来た時、その音は止まる。
「ではラグナ君。……いや、マキシマさんでしょうか? どちらでも構いません。楽しい『可能性』を期待していますよ」
歌うような言葉に嫌な予感が背を走る。ハザマがくるりとターンをしてこちらを向いた瞬間、気付いたラグナが悪態を吐いた。
「ちょっ、待て、ハザマ!」
「こいつ……!」
察したマキシマが駆け出す。――間に合わない!
革靴の底が床から離れる。コートが炎色に塗れた風に煽られてはためく。
伸ばした手は空を切り――一際口元に三日月を浮かべながら、ハザマは窯の炎へと飲まれていった。
マキシマは縁に手を掛け、中を覗く。そこにあるのはただただ炎色だけだ。
ラグナが苛立ちをぶつけるように舌打ちする。
「クソッ! 奴はテルミのところに向かったのか?」
「いいえ……彼はもう既に資格者ではないはず。それにあの状態で門へ辿り着けるとは思えない。このまま……境界のうねりに飲み込まれて……消えるだけよ」
「……あいつ……最後の最後に……っ!」
マキシマはガン、と近くの機材を殴る。
分かっている。全ての元凶はテルミだ。緑の蛇は一匹しか存在していない。
それでも……奴の器である以上、己の手かラグナの手で殺めるなり『救って』終わらせる事を望んで此処まで来たのだ。
あんなのは――勝ち逃げじゃないか。
「……いや、あの野郎は生きてる」
「え?」
ナオト自身も気付かぬ内に零してたのだろう。マキシマの声にハッとしたナオトは慌てたように取り繕う。
「あ、いや、その。何て言えばいいのか……勘? はははは……あー、兎に角生きてる気がするんだよな~」
「お前……めちゃくちゃ怪しいぞ」
「そ、そうか? まあその、あんま気にすんなよ。……兎に角、俺が探している『蒼』は、この世界には無いみたいだし。俺の役目も……此処までみたいだな」
ス、とナオトの髪色と目の色が本来の茶色に戻る。
「……世話になったな」
「礼を言う必要はねぇよ。多分、これは俺の……いや『俺達の世界』の為の戦いでもあったんだと思う。それに、マキシマには俺も世話になったしな」
「あはは、役に立った?」
「おう、勿論な。お陰でひもじい思いをせずに済んだぜ」
マキシマが眉を下げて笑う。多少なりとも役に立てたのなら万々歳だ。
片手を上げる。意図を察したナオトが笑い、同じく片手を挙げた。パン、とハイタッチ。
それを冷ややかに見つめる視線があり、ぞわりと駆け巡った殺意に慌ててナオトはマキシマから一歩離れた。
ジンが腕を組み、氷のような視線でナオトを睥睨している。
「……僕の姉さんがどう世話をしたのかは後で本人に聞くとして……貴様、本当に何者なんだ?」
「マキシマ……あんたも苦労してるんだな」
「あー、ははは……」
過度な感情を向けてくる弟妹というのにはナオトも心当たりがある。とても。
憐れみを含んだナオトの声に遠くを見てマキシマは頬を掻く。
「まあその件に関しては……ごめん、上手く説明出来ないんだ。俺もよく分かってねぇし」
何と言えば良いのか。適切な言葉が出てこずに喉で塊となる。もどかしそうにナオトは頭を掻いたが、そうだと顔を上げるとラグナを見つめた。
真剣な面持ちに、釣られてラグナも表情を引き締める。
「なあラグナ。礼の代わりにさ、頼みがあるんだよ。……ムラクモユニットを着た女の子達……いたよな。あの子達には出来るだけ優しくしてやってくれ。個人的に、あいつらに辛い思いをしてほしくねぇんだ」
ナオトの脳裏に浮かぶのは、長い金髪を束ねた赤い瞳の女性。ナオトの記憶の中で彼女が蠱惑的に笑う。
数多の『素体』からパーツをツギハギして生まれた次元境界接触用素体の七番目。顔見知り……以上の存在である彼女と同等の存在が、悲惨な扱いをこれ以上受けるのは気分が悪かった。此処が自身の知る世界でないとしても。自分が異邦人であろうとも。同じ目的で作られて使い潰される少女達が居るのなら、一人でも多く救われて欲しいと思ってしまった。
気まずそうにラグナが頭を掻く。
「……努力は……する」
「頼んだぜ」
ラグナなら悪いようにはしないだろう。そんな確信があり、ナオトはホッと息を吐いた。
「……ナオト!」
レイチェルが一歩前に出る。何か言いたげに一瞬瞳を伏せたレイチェルであったが、その長い睫毛を持ち上げると眉を下げ、微かに笑う。
「……ご苦労様」
果たしてその労いの言葉は、『どっち』がナオトに投げたのか。
或いは……『両方』なのかも知れない。
「ったく……人使いの荒いお姫様だよ」
ナオトの輪郭が光に溶けゆく。片手を挙げ、ひらりと軽い調子で振り、
「じゃ、またな!」
それでもニッと笑い――転移をするように、ナオトは去った。
一瞬の静寂の後。レイチェルはナオトが居た場所を暫しじっと見つめていたが、引かれる後ろ髪を断ち切るように瞼を伏せる。
「……ごめんなさい、ラグ――」
「悪い! 俺のせいで余計な時間を使っちまった。急いで門に向かうぞ」
「…………」
彼なりの配慮なのか、レイチェルの言葉を遮る。一瞬面食らったように目を瞬かせたレイチェルだったが、一つ息を吐くと微かに笑みを零した。
「レイチェル、お前は此処で留守番だ。……レイチェル?」
「え? ええ……そうね。ココノエが居ない今、貴方達を境界へ無事に突入させられるのは私だけでしょうから……」
ラグナがレイチェルの顔を覗き込む。
「おい……本当に大丈夫か? 別にお前がやらなくても……」
「兄さん、時間がない。すぐに降りる。姉さんはこっちへ。吸血鬼、バックアップは任せたぞ」
「はいはい」
先に窯の前まで移動したジンの隣まで行き、トリニティから座標を受け取るレイチェルを見つめる。その様子を見届けた後、視線を外したマキシマは足元へ目を落とした。
あと一歩足を踏み出せば、これより先は現世ではなくなる。レイチェルのバックアップさえあればちゃんと目的の……ノエルを拉致したテルミの待つ『理の外』へ向かえるだろうが、それでも足を踏み出す事に一瞬の躊躇いを抱いてしまった。生身で境界を渡るなど自殺行為に等しいからだ。
(……まあ、レイチェルに限って失敗するなんてあり得ないと思うけど)
無事だという確証はあっても、恐ろしいものは恐ろしい。
考え込んでいればス、と手が掴まれて握られる。顔を上げて隣を見れば翠緑と交差した。
「姉さん」
ぎゅ、と握られた手に力が込められる。その手と柔らかな声で、心の中に立ち込めた暗雲が涼やかな冷風に流されたような心地になる。
一つ息を深く吸い、握られた手を握り返すとマキシマは笑う。
「……ありがと。覚悟決まったわ」
足を踏み出す覚悟も、また別の『覚悟』も。
遠くでレイチェルの声がする。
「皆、準備が出来てよ」
「それでは皆さん、どうかご健闘を」
レイチェルとトリニティに見送られ、ラグナもマキシマ達の隣に並ぶ。ごう、と煽ってくる炎色に顔を顰めながらも、覚悟を決めたラグナが口を開く。
「そんじゃ、行ってくるわ」
それは別れの言葉ではなかった。そうしてラグナ、マキシマ、ジンの三人は同時に床を蹴って境界へ落ち――