微睡みに溺れて
ニヒトの解体計画を詰めていれば、大分遅い時間になってしまって。一筋縄ではいかない虚無の申し子には全く手を焼かされる。疲労感を隠さず息を吐いた総士は、人気のなくなったアルヴィスの廊下を歩いて会議室から自室へ向かう。ロックを解除して部屋に入ろうとして、開けた扉から煌々と電気が付いていることに気付いた。消し忘れて外出した覚えもなく、妙だと眉根を寄せる。
入室する。部屋を見回してみれば、机の上に見慣れない書類の束と本が置かれていることに気づいた。部屋の電気が煌々と付いていたのは、恐らくこれを届けに来た人物が出る時に消し忘れたのだろう。そう納得して机まで向かおうとし――一番奥まった場所にあるベッドが膨らんでいることに気付く。
誰かが、寝ている。一瞬身構えた総士だったが、その人物が誰かなのか分かると肩から力を抜き、本日二度目のため息を吐いた。
「……灯架。どうして僕の部屋で寝ている」
ベッドに腰掛けて書類に目を通していたのだろうか。そこから横になった体勢で、すやすやと灯架が規則正しい寝息を立てていた。眠って手の力が抜けたからか、足元やベッドに書類が散らばっている。
散らばった書類を集めて順番通りに並べる。どうやらニヒトの石棺に関する新しいアプローチ方法の記述のようで。
灯架の頭近くのスペースに座り、肩を揺り動かしてみる。うっすらと目を開けた灯架は視線を彷徨わせ、ぼんやりとした様子で総士の顔を見上げた。
「……そうし……?」
「ここは僕の部屋だが」
「ん……」
くい、と総士の服の裾を引っ張る。
「総士も、一緒に寝よ」
「いや、だからここは僕の、」
「んー……」
灯架の手がもぞもぞと探るように動き、総士の腕に触れるとぎゅ、と握って腕の中へ引き込む。バランスを崩した総士は灯架の方へ倒れ込むが、なんとかベッドに手と肘を付いて彼女を押し潰さないように留まる。傍から見れば灯架を押し倒しているように見える構図になってしまった。
すぐ近くに、灯架の顔がある。不測の事態に総士の脈が早くなる。ドクドクと鳴る心臓は鼓膜を破ってしまうんじゃないかと思うほど煩い。
「っ、灯架」
「んんー……」
そんなことも知らずに、灯架は規則正しく呼吸をしている。それが些か悔しくて。
顔を近づけ、耳元で囁く。
「……男と同じベッドで寝る意味を、分からない年齢でもないだろう」
「……総士なら、」
もごもごと灯架が口を動かす。寝言とは思えない、はっきりした口調。
「総士なら……良いよって、思ってるから」
それっきり、寝息を立てる。
大きく息を吐いた総士は隣にごろりと寝転び、灯架の髪に触れて梳く。昔から長さの変わらない黒髪は滑らかな指触りだった。
「……本気にするぞ」
なんて、呟く。
明日起きたらなんて言ってやろうか。そう考えながら総士はメガネを外し、部屋の照明を落とした。