二話の話
「総士!」
聞き慣れた、けれどこのアルヴィスのCDCには一番不似合いな高い声が聞こえ、呼ばれた総士はモニターから顔を上げて振り返った。
こちらに駆け寄ってくる制服姿の人物はかつてのファフナーの搭乗者であり、総士の幼馴染であり、理解者であり、恋人でもあり――
「灯架! どうして此処に居る!?」
駆け寄った灯架は総士の隣に立つとモニターを覗き込む。画面に表示されている情報に目を走らせながら呟いた。
「ソロモンの予言はなんて?」
「……ファフナーに乗るつもりか?」
咎めるような、総士の硬い声。けれど灯架は平然とそれを受け止めると首肯した。
「竜宮島が危ないなら、乗る。それが総士を守ることに繋がるなら」
「お前の後輩達が出撃する。灯架は一騎達と此処から映像で戦闘を……」
「やだ!」
「子供のようにダダをこねるんじゃない! 大体、蒼穹作戦の時点でかなり同化現象が進行していてたじゃないか! そんな体で出撃するつもりか!?」
「治ったよ!」
「治った、じゃない! もう少し自分の体を省みろ!」
「そ、それ総士が言う……!?」
そして遂に灯架が痺れを切らし、総合管制室の司令官席に座っている真壁を見上げた。
「真壁司令、出撃許可お願いします……! 私のマークフィアツェンで出撃させてください!」
総士では話が通らないと思ったのか、灯架は司令官である史彦に指示を仰ぐ。
史彦は頭痛を覚えるように額を押えて眉を顰め、沈黙した後に重く息を吐いて呟いた。
「……マークフィアツェンの出撃を許可する」
「「司令!」」
片や歓喜の声、片や責め立てる様な声。どちらがどう発したかなんて一目瞭然だろう。
「マークフィアツェン、出撃スタンバイへ移行。パイロットの似鳥灯架はシナジェティック・スーツに着替えた後格納庫へ。三分後に出撃せよ」
「……はい!」
命令を下された灯架は表情を引き締め、史彦に向かって敬礼をすると直ぐ様着替えようと駆け出したが、それを呼び止める声があった。
「灯架」
「総士?」
司令官である史彦の出撃命令に観念したのか、いつもの冷静さを取り戻した総士が振り返った灯架の視線の先にいる。
どうかしたのかと総士の元まで戻ると不意に腕を掴まれ、ぐいと引き寄せられた。そのまま総士に抱きしめられ、彼らしくない行動と突然のことに目を白黒とさせながらも灯架は総士をおずおずと見上げる。
「そ、総士……?」
「――本当は、灯架を出撃させたくない」
低く呟かれたそれに、灯架は目を見開く。
「お前は十分に戦った。十分にこの島を……僕を守ってくれた。だから無理して出撃する必要は何処にもないんだ。けれど、お前が出撃すると言うのなら……僕は此処で灯架の帰還を待つ。僕がお前の帰る場所になる」
「そう、し……」
灯架は総士の背中に腕を回すとそっと目を閉じ、総士の肩口に頭を預けた。
「……うん、ありがと。待っててくれる人がいるっていうのは、嬉しいもんね」
「だから、絶対戻って来るんだ。良いな?」
「……うんっ!」
総士は灯架を離し、灯架は小さく手を振ると今度こそ更衣室へと駆け出す。
「……良いわねえ、青春してるって感じで」
「そうねぇ」
そんな呟きがブリュンヒルデ・システムのある座席から聞こえ、ハッとした総士は大きく咳払いをした。
◆◆◆
出撃を終えてアルヴィスに帰還し、シナジェティック・スーツから制服に着替えながら灯架はふと気づく。
この後は医務室に行って検査が控えている。恐らく診てくれるのは剣司だろうし、多少ラフな格好で行っても多めに見てくれるのでは? それにどうせまた着崩すのだから、しっかりスカーフを巻いたり、上着を羽織らなくても良い気がする。ワイシャツを羽織り、ボタンを数個留めただけのラフ『すぎる』格好で灯架はスリッパを履くと、ペタペタと音を鳴らしながら医務室へ向かう。
「剣司、来たよ」
「おー、入れ」
ドアを開ける。中を覗けば剣司だけではなく総士も居て。ああ、 ジークフリード・システムに乗ったから総士も検査に来てるんだなと灯架が呑気な感想を抱くよりも早く、ツカツカと灯架に歩み寄った総士は己の上着を被せる。
「せめて上着を着てから行動してくれないか」
「もう着せられた……」