もし私が死んだなら
「もし私が死んだなら」
開口一番にそう言われ、灯架の隣に並び立つ総士は僅かに目を見開いた。
寝付けない様子の灯架がテントを抜け出したのに気づき、起きた総士が追ってテントを後にしたのが十数分前の話であった。キャンプ地に選ばれた荒野は当然人工的な光が無く、夜空を見上げれば数多の星が瞬いていて。
後ろで手を組み、それを見上げながら灯架が呟く。
「総士は、どうする?」
僅かに眉を顰め、総士は呻くように呟いた。
「……お前にしては笑えない冗談だな。自分が死んだならなど、らしくもない」
「そうかな。……うん、ちょっと、最近思うことがあって」
対して、灯架は総士の顔を見ると困ったように眉を下げて笑う。
灯架の言う『思うこと』に心当たりがあるのだろう。総士は眉間の皺を深くすると更に続ける。
「人類軍兵士の同化現象か」
「うん。……拮抗薬が尽き始めて、人類軍の兵士がどんどん居なくなってって、子供まで予備兵として召集されて……その子達も居なくなってって。ふと思ったの、私が次の戦闘で死ぬ可能性はゼロじゃない。だから……私が死んだら、総士はどうするのかなって」
「……考えてもみなかったな」
顎に手を当て、真面目に考え込む総士を見て灯架は小さく吹き出した。何故灯架が笑ったのか理解できず、総士は首を傾げる。
「何だ? 何か変なことを言ったか?」
「ふふ、私が死ぬなんて考えてないってことが分かって、ちょっと嬉しくて」
「当然だろう。普通、恋人の死後を考える奴は居ない」
「そっか。えへへ」
口角を上げて笑う灯架だが、ふと表情を引き締めるとぽつりと切り出す。
「……でも、もし私がこの旅の中で死んだら、残った同化結晶は竜宮島の海に撒いてね」
灯架は瞳を閉じ、両手を胸に当てるとひどく穏やかな声色で告げる。総士も落ち着いた声で返した。
「海に撒くのか?」
「うん。……でも、私の遺した物は総士が持ってて。そうすれば、いつでも私は総士の傍にいつも居られる」
「分かった、約束しよう。だが――」
頷いた総士が灯架の腕を掴み、引き寄せる。驚く灯架を余所に総士は灯架を抱き竦めた。たまに抱き締められる時よりも、腕に篭る力が強い。
「お前のことは必ず守る。だから、必ず生きて島に帰ろう。灯架」
力強い言葉は闇夜の灯のような確かさがあり。抱き締められたまま、灯架は頷く。
「そっか。ありがと総士」
パキン、と音を立てて手のひらに生えた同化結晶を握り潰し、灯架は静かに笑った。