踊る虚像
『私は、総士を信じます。この子の示す進路の先に、未来はある』
先程の会議で堂々と言い切った灯架の言葉を反芻する。
総士すら気付かない水面下でベノン側と繋がっているかも知れないと周囲が疑問視する中、同じエスペラントの美羽と、彼女だけが全幅の信頼を向けてくれている。その信頼に値するほどの行いをしてきたかと思い返せど心当たりは無く、寧ろ失礼な態度ばかりしてきたような覚えさえある。だから、どうして彼女がここまで親身に接してくれるのか、信頼してくれるのかが分からなくて。
――いや、あるとすれば。
アルヴィスの白い廊下を歩く総士は、少し前を歩く灯架へ言葉を投げる。
「僕が皆城総士だから、信頼してくれるの?」
歩いている足が止まった。振り向いた灯架は一瞬驚いたように目を見開き、首を横に振る。悔しそうな、泣きそうな表情で。
「……違う。違うよ、総士。私は、君だから信じるの」
「だって、僕は貴方に信頼されるほどのことをしていない」
ぐ、と体の横で拳を握る。
虚像がチラつく。亡霊の声がする。自分だけど自分ではない、『前の』皆城総士の虚像が。
彼女は誰よりも皆城総士を想っている。だから自分に構う理由なんてそれしか思いつかないのだ。
僕が、皆城総士だから。
再度、灯架が首を横に振る。総士に歩み寄り、強く握り込まれている彼の手をとった。
「私は、総士のことを沢山知ってるよ。連れ去られるまではずっと一緒に居たんだから。だから総士が嘘を吐いてないって分かる。総士を信じられる。君の信じた先に、未来はあるよ」
ふわりと笑い、灯架は総士の頭を撫でる。昔のことは覚えていない。だけど撫でられた時、どうしようもなく郷愁が湧いてきて。
――この手を、自分は知っている。
「……ありがとう。灯架、さん」
軽く俯き、礼を言う。少しばかり、昔のことを早く思い出したいと願ってしまって。