残る物、遺る者
「総士、一緒に写真撮らない?」
そんな風に誘われたのは、総士が剣道の練習を終えた頃だった。
どうして急に、と思ったものの、総士の脳裏に先日見た光景が浮かぶ。神社の一室にずらりと並べられた、居なくなった者たちの遺影。そして遠見家に飾られている『美羽』の両親の写真。灯架の家に飾られていた、彼女と自分によく似た青年が写ってる写真が。
だから何となく察しがついた。灯架は、自分と彼女が此処に居た痕跡を残そうとしている。
一枚だけなら、と小さく呟けば、花が綻ぶように灯架が笑う。どうしてもその笑顔に勝てる気がしなくて、総士はふいと顔を逸した。
二人で海沿いを歩き、巨大なオブジェの前で止まる。確か前に美羽が案内してくれた時、「町のシンボルなんだよ」と自慢げに教えてくれたっけか。
通りかかった人にカメラを渡し、灯架はオブジェの下で総士を手招く。
「ち、近いって」
「でも、もう少し寄らないと写らないよ」
気恥ずかしくて距離を空けようとするが、灯架は総士の肩に手を置いて身を寄せてくる。
ええい、早く終わってくれ。パシャリとシャッターが切られるのを待つ。ややあってその音が聞こえた総士が素早く離れれば灯架がくすくすと笑い。
「出来たら、ちゃんと飾ってほしいな」
「どうして?」
「私が居なくなても、総士が思い出してくれる」
酷く柔らかな声で吐かれたそれに、総士は渋面を作った。まるでいつ自分が死んでも不思議ではない。いつでも準備は出来ているという口ぶりだ。
――気に食わない。
「……絶対、飾ってやらないからな」
「えっ」
タタッと軽やかに駆け出す。戸惑った様子の灯架なんて知るもんか。
「頼まれたって飾るもんか!」
振り返り、べーっと舌を出して総士は遠見家へと駆けていく。取り残された灯架はぽかんと小さく口を開けて小さくなっていく背を見送っていて。
写真を飾ることが心構えになるのなら、絶対飾ってやるものか。生きて、生き抜いて、鮮烈な生き様をこの眼に焼き付けさせてくれ。