総士生誕祭2021

 最近、灯架の様子がおかしいと感じる。
 仕事の話をする時はいつも通りなのだが、終わればそそくさと戻って行くし、一緒に帰らないかと誘っても「用事があるから」と何となく断られてしまう。休日に偶然会ったときも何故かバツの悪そうな顔をされてしまうし。
 もしかして灯架に嫌われたのか、と楽園に来たついでに一騎に零せば、

「いや……そうじゃないと思うぞ」

 そういう一騎の目は少し泳いでいた。
 この幼馴染二人が嘘を吐けない質なのは十分に知っている。嘘が吐けないから、代わりに距離を置いたり誤魔化そうとするのだ。
 気まずそうにする一騎は、まだ自分たちの間にわだかまりがあった頃を思い出してしまう。言いたいことが言えず、相手はそうなのだろうと決めつけ、一人で抱え込んでしまう、そんな頃の。
 そうか、とだけ返した総士は席を立つ。此処で深く追求しても望む答えは帰ってこないだろう。

 それから数日。やはり灯架の様子がおかしい。だというのに楽園では一騎と何やら話し込んでいたりしていて。
 まさか、と言う思いとそんな筈は、という気持ちが沸く。「総士先輩、コーヒー零してますよ」と呆れ気味の暉の言葉が聞こえるまで机に茶色の水溜まりを作っていた。
 確かに言葉選びは不器用だし、愛情表現だって不得手だ。それでも誰にも負けない程度には灯架を愛している自負はある。
 だから──灯架に避けられるというのは、存外苦しいもので。
 はあ、と息を吐いてコーヒーに口をつける。気になりすぎて仕事も手につかない状況だ。
 別の日にアルヴィスの廊下で会った灯架を引き留め、手を掴む。驚いたように目をぱちぱちと瞬かせた灯架が総士を見上げる。

「僕に、言えない理由があるのか」

 咄嗟に開いた口をきゅっと噤み、僅かに灯架は俯く。

「……ごめんね、総士」

「……そうか」

 手を離す。その手をもう一度掴むのは、少し躊躇われた。
 総士が踵を返す。その背中に投げる待っての声と、服を控えめに掴む手があった。

「その……もう少ししたら、言うから」

 縋るような、不安そうな目。しかし手を離した灯架はぱたぱたと小走りでアルヴィスの廊下を走っていった。
 そうして年の瀬が迫った明くる日。アルヴィスの自室に朝早くからやって来た灯架に手を引かれてやって来たのは──

「まだ開店前だろう」

「良いから、開けてみて」

 雪だるまが出迎える楽園の玄関扉。朝早いのだから一騎や暉が居てもまだ仕込み中だろうと思うのだが、灯架にぐいぐいと背中を押されて仕方なく総士は扉に手を掛ける。
 扉を引けば──

「総士、誕生日おめでとう!」

「先輩、お誕生日おめでとうございます!」

 暗かった店内に明かりが灯される。パン! と炸裂するクラッカーの音。
 驚きに一瞬目を閉じた総士が次に見たものは、クラッカーを持つ一騎や咲良、芹や里奈たちの姿で。
 ようやく、理解する。理解して……頭痛を堪えるように総士は額に手を当てた。

「なるほど……そう言うことか」

「総士……怒ってる?」

 隣に立つ灯架が不安そうに見上げてくる。

「怒ってはいないが、お前も一騎も嘘が下手だなとは思ったな」

 結局、このサプライズを企画して驚かせたかったから黙っていたのだろう。押し寄せてきた安堵に笑みを零せば、嘘の下手さを笑われたのかと思った灯架が頬を膨らませる。

「料理は俺と暉が作ったけど、ケーキは灯架が作ったんだよ」

 カウンターの奥から一騎がケーキを持ってくる。少し歪さのあるケーキの表面や絞られたクリームが見受けられるが、それでも灯架が料理が増えてなことを思えば上出来の部類だろう。

「零央と一騎に教えてもらいながらね、頑張ったの」

 そのために一騎と頻繁に話してたのだろう。恥ずかしそうに灯架がはにかむ。

「プレゼントも用意してあるんだけど……まずは乾杯しよっか、総士」

「ああ、そうだな」

 手を引かれ、中に進む。
 繋がれた手はひどく暖かくて、離しがたいものだった。