「はぁ~~…………」
「おいおい、そんなに深い溜息を吐いてどうしたんだ、エレオノール? あんまり溜息を吐くと幸せが逃げてくぞー」
昼食も終わり、人がまばらになってきた食堂。その一席には未だエレオノールが座っている上に何やら深刻そうな顔をしていて。シルヴァンは軽い調子で隣の席に腰掛けると机に頬杖を付いてエレオノールを見やる。
「で? なにがあったんだ? 殿下がまた訓練場の壁を壊したか……はたまたアネットが厨房を燃やしたか……俺が女の子を口説いたことによって、また巻き込まれて面倒なことになっちまってるとか……」
「あ、自覚はあるんだ。……ええとね、今日は自分のことなの」
エレオノールは懐を探って一枚の手紙を取り出すと、それをシルヴァンへ渡した。受け取った手紙をまじまじと観察してみる。触り心地の良い素材の紙にしっかりと貼られている封蝋。なる程。
「どこかの貴族の坊ちゃんからの恋文か!」
足を蹴られる。冗談冗談と笑いながらシルヴァンは封蝋に押されている印字を見た。押されているマークはバスカヴィル家の家紋だ。下のサインにも見覚えがある。エレオノールの父親の名前だった。
はあ、とエレオノールが溜息を吐く。
「それ、お見合いをしろって催促の手紙なの。開けてないけど、どうせそういう内容だよ」
「あーなる程な、エレオノールがお見合い……」
手紙を色んな角度に回して眺めていたシルヴァンが勢い良く立ち上がる。
「ハァ!? 見合いだって!?」
「そう言ってるじゃん……」
なにを聞いていたんだ、と呆れたような視線をシルヴァンに向ける。のろのろと着席したシルヴァンはガリガリと頭を掻く。
「まあ……婚約者の一人や二人居ても良い年頃だもんな……そうだよなぁ……」
「いや、二人居たらだめでしょ。……まあ、私くらいの年の子でもう結婚してるなんて貴族社会じゃ割と当たり前だしね」
「今まで話が来なかったのか?」
「全部突っぱねてた」
シルヴァンが吹き出す。この幼馴染のきっぱりと言いたいことを言う性格はとても好感が持てる──自分はそれが出来ず、のらりくらりと躱したり押し殺したりするから。
エレオノールが自分の手元にある、水の入ったコップをひきよせる。
「でも流石にねぇ、いい加減相手を見つけないとって言われ始めて。紋章持ちだから婿取るか有力貴族のところに行けって」
コップをいじりながら「嫌になっちゃうよねぇ」とエレオノールは困ったように笑う。その笑顔を、じっとシルヴァンは眺めていた。
「……返事、どうするんだ?」
「んー……今回は見なかったことにして破って捨てる」
もう一度シルヴァンが笑う。
エレオノールはコップの水を飲み干すと大きく伸びをして立ち上がった。
「ありがと、シルヴァン。聞いてもらってちょっとスッキリしたかも」
「このぐらい、なんてことねえよ。いつでもこのシルヴァンお兄様を頼ってくれても良いんだぜ?」
「ふふ、ありがとう。次手紙が来たらまた相談するかも」
じゃあね、と手を振ってエレオノールは大聖堂の方へ向かっていく。その背が小さくなっていくのを見送りながら、シルヴァンは考える。
自分には、何が出来るのだろうか。