聖王代理と支援会話してみた-A
「ヒンメル、此処に居たのか」
「ああ、クロム。どうかしたの?」
訓練用の古びた剣を持ってるクロムの呼び掛けに、城壁の前でしゃがみ、パレットのような物を持ってるヒンメルが膝をついた体勢のまま振り返った。
「いや、少し用事があって……って、お前は何をしているんだ?」
「壁の修理」
「修理?」
ヘラのような道具で一部の壁をヒンメルは指し示す。確かに、ヒンメルの示した箇所は抉り、削られたかのような壊れ方をしていた。この辺は兵士達が訓練でも使う場所だ。誰かが誤って城壁を壊してしまったのだろうか。
ヒンメルは頷き、作業に戻りながら言う。
「そ。他の人は皆手が回らないし、でも早く直さないと襲撃された時に大変でしょ?だから私が直してるの」
ペタペタと道具を使って大きく空いている壁の穴を修復していく。無駄なく穴を埋めていき、手馴れた様子だ。
「それにしても……慣れているな」
感心するクロムの声に、ヒンメルは呆れたように言う。
「当たり前でしょ? 殆ど毎回、訓練の度にクロムが壊した壁を修復してたの、私なんだから」
「毎回、か?」
「ほぼ毎回。昔からね。……よーし」
道具を傍らに置き、パンパンと手を叩いてヒンメルは立ち上がる。今塗って埋めた箇所が乾いてから、残りの作業をする。それまでは出撃の号令が掛かるまで休憩出来るだろう。使った道具を箱にしまったヒンメルは箱を抱えて立ちながらクロムと向き合った。
「ごめん待たせちゃったね。用事聞くよ?」
「あ、あぁ。だったらそこのベンチで話そう」
「わかった。……あ、ちょっと待って」
天幕の方に走って行き、姿が見えなくなったと思ったらすぐ現れた。手には道具が入ってる箱の代わりにマグカップが二つ握られているみたいだ。何をするんだとベンチの前で見守っていたクロムの所まで戻ってくると、ヒンメルは片方のマグカップを差し出す。
「フレデリクさんにお茶入れて貰ってきた。はい、クロムの分」
「相変わらず気の利く奴だな、お前は。……うむ、美味い」
「ふふ。お茶のお礼はフレデリクさんにね」
漸くベンチに座って一息つく。晴れ晴れとした青空の下、こうものんびりとお茶を啜っていると、どうも今が戦争中だというのを忘れてしまいそうになる。
「……思えば」
マグカップの中のお茶に浮かんだ波紋を見つめながらクロムが切り出す。
「俺が子供だった頃からヒンメルはずっと城に居たな。年も近いから一緒に行動するのも多かった。だが、こうやって隣に座って茶を飲むのは滅多に無かったな」
お茶を飲み、空を見上げながらヒンメルは頷く。
「そりゃ、クロムは王子で私は一介の兵士だもん。普通に考えて一緒にお茶なんて本来出来ない関係なんだから」
でも、とヒンメルは続けながらクロムの横顔に視線を向ける。
「私はこうやってクロムと過ごすの、嫌いじゃないよ」
「俺も、ヒンメルとこうやってるのは嫌いじゃないな。隣にいられると落ち着く」
「ふふふ、そっか」
静かに微笑し、ヒンメルはお茶を啜る。その横顔を、クロムが魅せられたように眺めていた。
視線に気付いたヒンメルがマグカップから口を話し、不思議そうな顔でクロムを見やる。
「……? どうしたの?」
「! い、いや! 何でもないぞ!!」
グイっと一気にマグカップを仰いで中身を飲み干したクロムは「失礼する!」と言ってバタバタと天幕へと戻って行った。
「……どうしたんだか」
疑問符を浮かべて、ヒンメルはクロムが走り去った方角を眺めながら残りのお茶を飲み干した。
後日談として。
走り去るクロムと擦れ違ったルフレがクロムの顔が赤い事に気付き、心配してフレデリクに相談したところ、次の日にピンクのマフラーをぐるぐる巻きにした聖王代理が軍会議に出席して、何事かと皆の間で密やかに噂されたとか。