聖王代理と支援会話してみた-S

 軍議の行われる予定の天幕に入れば、既に先客が居て忙しそうに準備をしており。先客は人がやって来た気配を感じたのか入口を見ると僅かに笑って手を振った。

「あ、おはようクロム」

 軍議で使うのであろう書類を適当な机に置き、ヒンメルはクロムに寄って行く。クロムはぎこちなく片手を上げて挨拶をした。

「あ、あぁ。お前も早いなヒンメル

「まあ、おはようと言っても日が昇って結構時間経ってるし、今から軍議だしね」

 そんなに早くないよと苦笑混じりのヒンメルは言うが、不意に笑いを止めるとずい、とクロムに顔を近づけた。クロムは僅かに身じろき、少し低い位置にあるヒンメルの顔を見つめ返した。ヒンメルの顔を文字通り目と鼻の先だ。

「な……何だ?」

「顔赤い。呼吸も早い。どうしたの、体調でも悪い? 体調管理はしっかりしなさいって」

「そうだな……最近、ヒンメルと居るとどうも体調がおかしくなる」

 半歩後ずさって口元を覆い隠すようにしてるクロムをヒンメルは訝しむ。自分にクロムの体調を悪くさせるような点があっただろうか、と。

「……クロムあんた、もしかして」

「……ああ、ヒンメル。俺は――」

「不整脈なんじゃ……」

「そうじゃない!!」

 真顔で放たれた答えにクロムはヒンメルの両肩をガシッと掴む。わ、っと力強く掴まれた事と突然の事にヒンメルは間抜けた声を出した。

「お前と居ると動悸が激しくなったり、四六時中お前の事を考えてたりするんだ! ここまで言えば分かるだろ!?」

「は……えっ?」

 肩を揺さぶられて、此処まで言われても尚状況について行けていないみたいで。クロムはそれはそれは、深い溜め息を吐き出す。

「ふ……ふふ……そうか、ならば本気で言うぞ!!」

「なっ、何を!?」

 あまりの気迫にヒンメルはやや引き気味だ。

ヒンメル、好きだ!! 一番、誰よりも、お前を愛している!!」

「はっ、え、あ、…………ええええええ!?」

 未だ肩を掴んだまま息を荒らげるクロムを至近距離で見つめ、言葉にならない言葉を口にしていたが、漸くクロムの言葉を理解した様子でヒンメルは頬を紅潮させて素っ頓狂な声を上げた。

「だ、だって……私とクロムは一介の兵と王族で……幼馴染で……」

「幼馴染だから、俺が王族だから、恋愛の対象としては見れないか?」

「そんなことはない!!」

 今度はヒンメルが大きな声を上げてクロムを驚かす番だった。顔を赤らめながらも真っ直ぐとクロムを見つめる。

「その、クロムは好き、大好き。それこそ昔から……ううん、城に召抱えられた頃から。でも、この想いを伝えたところできっと受け取ってもらえないだろうし、クロムには良いお嫁さんが将来現れると思ってたから……」

 だから、と区切り、ヒンメルは滅多に見せないような笑顔を顔に浮かべた。

「素直に嬉しい。……そのお話、喜んでお受けさせてください」

「……ヒンメル……ッ!」

「うわっ!? ちょ、苦しいよクロム!」

 掴んでいたヒンメルの肩を引き寄せ、抱きしめる。ヒンメルはクロムの腕に抱かれて苦しそうに身を捩ったが、それでも何処か嬉しげな表情だ。

「そうだ、ヒンメル。これを受け取ってくれ」

 漸くヒンメルを解放し、クロムは懐から取り出したものをヒンメルの手のひらの乗せた。乗せられたものは小さく、銀色に光り輝いている。摘んで色んな角度でそれを眺めてみると、どうやらそれは指輪だった。それもイーリス王家の家紋の彫られた――

「こっ、これ……王家の家紋が彫り込んであるじゃん! ……いいの?こんな貴重なものを私になんて……」

「ああ……これは、俺が生まれた記念に両親が作ってくれたものらしい。俺がいつか伴侶となる者を見つけた時にこれを贈るようにと教わったんだ。だから……お前にこれを渡す。そして生涯の愛を誓うよ」

 もう一度手のひらに乗せられていた指輪をクロムは摘むとヒンメルの手を取り、左手の薬指に指輪を填める。まじまじと填められた家紋入りそれを見て、ヒンメルは両手で顔を覆うとその場にしゃがみこんでしまった。

「ど、どうした?」

「いや……ごめん、すごく、今幸せだなーって思ってた……」

 と、頭上で吹き出す音。指の間から上目に様子を伺ってみるとクロムが肩を振るわせて笑っている。じろりとヒンメルは睨めつけた。

「……何笑ってんの」

「いや……すまない。だが、これからもっと幸せになるのに大丈夫か?今からそんな事で」

 もう一度顔を覆い、小さくヒンメルは唸る。

「うー……そうだね。絶対勝って、世界を平和にするんだもんね」

「少し俺を意味合いが違うが……まあ良いか。改めてよろしく頼む、ヒンメル

 呆れたように笑いながらもクロムは手を差し出す。顔から手を外したヒンメルは、

「此方こそ、不束者だけどよろしくお願いします、クロム」

 それを腕をしっかりと伸ばして握り、ヒンメルは立ち上がった。


2013/03/05