お口直しに甘いものを
気まずい、とヒンメルは隣で荷物を抱えて歩いている盗賊を横目で見ながら思う。
つい最近の事だった。聖王エメリナが暗殺されそうになるという由々しき事態が発生し、それはマルスを名乗る人物のお陰で最悪のシナリオは免れた。その時だ。ガイアと言った盗賊が仲間になったのは。
「……よし、ルフレに頼まれた物は全部買ったな」
得意気に一人で笑みを零す彼の事を、まだよくは知らない。何で敵側から此方に寝返ったのかとか、どういう物が好きだとか、どんな性格なのだとか、全くと言って知らない。故に、どう接すれば良いか戸惑いを覚えてしまう。
「ん、何だ。俺の顔に何か付いてるか?」
「! あ、いや、大丈夫。普通だよ」
考えに集中するあまりにガイアの顔をジッと見ていたみたいだ。ふるふると首を振って気を取り直すと、抱えてた荷物を持ち直す。その時隣から――ガイアが立っている方から微かに甘い香りがした、ような気がした。
ヒンメルは首を傾げる。
「……あれ? ガイア……あんた、お菓子屋の前でも通った?」
「菓子屋? いいや、通っちゃいないが」
ガイアの応えに更にヒンメルは首を捻る。
「それにしては、なんだか焼き菓子みたいな匂いがしたんだけど……気のせいだったかな」
「いや、気のせいじゃないだろう」
手品か、と思う程の手際の良さでガイアはパッと焼き菓子を手の上に出現させた。驚いたヒンメルが口を中途半端に開いているとガイアがフッと何故が勝ち誇ったような笑みを漏らす。
「全身の五十箇所に菓子を隠し持っているからな」
「ごじゅ……」
どれだけ隠し持ってるんだと驚きを隠せないヒンメル。それだけあれば確かに隣に立っているだけで甘い香りがしてくるのも頷けるだろう。
ヒンメルは暫く何か言いたそうに口をモゴモゴさせていたが、やがて空いている片手で一つの路地を真っ直ぐ指差した。
「……あっちに焼き菓子の名店があるんだけど……行く?」
「良いのか!?」
今にもヒンメルの肩を掴んで揺さぶりかねない程の食いつきっぷりだ。心なしか目が輝いている気がする。
「お前、良い奴なんだな……よし、何か欲しいものはあるか?何でもいいぞ」
「良い人の判別の仕方にツッコミたいけど……いいよ、欲しいのとか特に無いし」
「だって名店なんだろ? そんな店をタダで教えて貰うのはな……」
困った風に眉を下げるガイアだがヒンメルだって困ってる。二人してうんうんと唸っていると、ヒンメルが「じゃあ」と提案を出した。
「また私が買い出しの時に付き合ってよ。こうも荷物が多いと私も大変だし」
「……そんなので良いのか?」
「逆だよ。そんなので良いんだよ」
意味が分からず眉を顰めるガイアとは対照的にヒンメルは笑みを浮かべた。
「私達、仲間なんだから」
つい先程まで言えなかった『仲間』という単語は、土に水をやったようにスゥっとヒンメル自身の心に染み込んだ。