alleluia
「ルーキーナー!」
「あっ、お母様……どうかなさいましたか?」
訓練場に木霊するファルシオンが空を切る音が止む。ルキナはファルシオンを鞘に収めると近くに掛けておいたタオルで額に流れる汗を拭きながら振り返った。そこにはニコニコと笑顔を浮かべてるヒンメルが。
一体どうしたのだろうか? そう思いながら次の言葉を待っていると、突然手を掴まれた。
「な、ど、どうされたのですか?」
「ついて来て!」
訳が分からなかった。疑問符を浮かべながらルキナはヒンメルの為すがまま城の通路を歩き、ヒンメルに「さ、入って」と示されたのは浴室だった。本当に訳が分からない。その場で困惑していたらヒンメルにグイグイと浴槽へ押し込まれて。よく分からないが、湯浴みすれば良いのだろう。ルキナは防具を外していく。
「湯浴みが終わる頃にセレナが来るから、指示に従ってね!!」
「え? ちょっと、お母様!?」
バタバタと遠ざかる音。何処かに走って行ってしまったみたいだ。はぁ、と息を吐くとお湯のたっぷり入った浴槽を見やる。
「……入るしか、ないんですかね」
覚悟を決めたように、ルキナは服の端を掴んだ。
◆◆◆
「ん、なかなか似合ってるじゃない」
「そ、そうでしょうか……?」
着せられた服を見、その場でくるりと一回転。セレナに着せられのはヒンメルの見立てと聞いたドレスで、薄青の生地にところどころフリルの付いた綺麗なデザインだ。
「それ着て、クロムさんの部屋に来てって言ってわよ」
「お父様のお部屋に? 何故でしょうか……」
「さぁ?私が知るわけないじゃない」
そっけない態度だが、言外に「だから、早く行きなさいよ」と語っているように見えて。ルキナは小さく笑うと着付けしてくれたセレナに礼を言い、ドレスの裾を僅かに持ち上げて走り出した。
目指すは、愛すべき父の部屋だ。時代が違えど、城の内部は変わっていない。勝手の知れた道を走り、曲がり、それを何度か繰り返したところで目的地が見えてきた。扉の前までやってくるとルキナは走って乱れた息と髪を整える。せっかく湯浴みしたのに台無しだと思ったが稽古の時程汗はかいていないのが幸いだった。身支度を整えると、扉に手を掛ける。
「失礼します、お父様――」
扉を開け、中の様子が少し見えたところでルキナは息を飲んだ。落ち着け、と自分に言い聞かせながら入室し、今度こそじっくりと部屋の部屋の中の様子――具体的に言えば、中央に置かれたテーブルの上と、その脇に立つ両親の姿を見ることが出来た。
「えっと……お母様、お父様、これは……?」
綺麗に飾り付けられた卓上には美味しそうな料理とケーキが並んでいる。これでは、まるで――
「ルキナ、お誕生日おめでとう」
「本当はお前に稽古をつけてやりたかったんだが、ヒンメルが反対してな……」
「普通、女の子の誕生日にそんな女っ気のないプレゼントする?」
それに、と前置きをするとヒンメルはルキナを手招いた。おずおずとルキナが寄ってくると、彼女の頭に手を置いて撫でる。
「……あっちの私達がルキナにさせられなかった事、してあげたいから」
「そう……だな」
ヒンメルが手を下ろし、次はクロムがルキナの頭を撫でる。するとどうした事だろうか。ルキナは俯き、ドレスの裾をギュッと掴むとポロポロと涙を流し始めた。
「ど、どうしたルキナ!」
「だ、大丈夫!? クロムの撫でる手が痛かったの!?」
「俺のせいか!?」
「い、いえ! お父様の手が痛かったわけではないんです!」
オロオロとし出す二人を宥めるようにルキナは顔を上げて手を顔の前で振る。
「その……私なんかの為にこんな素敵な事をしてくださって、本当に嬉しくて……」
「ルキナ……」
ヒンメルは宥めるような声色でルキナの名を呼ぶと、彼女の目の端に溜まっていた涙をソっと人差し指で拭う。
「私なんか、なんて言わないでよ。だって可愛い娘の誕生日を祝うのって当然じゃない?」
ね、と同意を求めればクロムも頷く。
「ああ、そうだ。来年だって再来年だって、俺たちは祝う気満々だしな」
「……お父様……お母様……っ!!」
ヒンメルとクロムの腕を取って引き寄せ、ルキナは二人を抱きしめる。照れたようにルキナの背に腕を回すクロムに、くすぐったそうに笑うヒンメル。
「……本当に、おめでとう。ルキナ」
2013/04/21