残酷すぎる月のない夜

 ――皆、過去の世界で会いましょう。

「……って、跳んで来たは良いけど、っわ!」

 ナーガ様のお力で父様や母様の生きている世界目指して時空の扉を潜ったのは良いが、あくまで「目指してる」は「目指してる」であり、確実に父様達が生きている世界とは限らない。もしかしたら事が起きる前の世界かも知れないし、もしかしたらあの忌まわしい邪竜ギムレーが復活している世界かも知れない。けど、後者は可能性が低いだろう。

「まあ、綺麗な星空で……」

 格好良く飛び降りてくる筈が思いっきりずっこけてしまった。
 転んだはずみで落ちてしまった短髪のウィッグを被り直し、だだっ広い野原に仰向けに寝転がる。そうして見上げれば、視界一面が星の海でいっぱいになる。邪竜が支配する世界では見られなくなった空だ。
 何故短髪のウィッグを被り、男物の服を着、蒼炎の勇者・アイクの名を名乗っているのか。そう問われれば私はこう答える。「あの絶望の世界でわたし自身と人々を鼓舞する為」と。そうでもしなければいけない程、わたし達は追い詰められていた。

「……よし、行くかな」

 暫く星空を眺めてからわたしは起き上がって、マルスを名乗る姉様がしたように、わたしもジェロームから貰った仮面を付けて顔を隠す。もし父様達が窮地に陥れば手助けするつもりだが、不必要な介入・改変は未来にとって宜しくない。それを防ぐための男装でもあり、心を隠す為の仮面だった。
 まずは近くの集落か街を探して、現在地と時間を確認して、それからイーリスへと向かおう。その道中で父様達や仲間たちに会えれば良いのだけれど――。


2013/05/06