少し泣いた背中
ゴツ、と後頭部を柱に預け、ヒンメルはズルズルとその場に座り込むと膝を抱えた。
イーリス城の大広間。そこにヒンメルは一人ポツンと柱に寄りかかって座っている。外からは歓声と花火を打ち上げる音が僅かに響いてきて。それが耳に届いてヒンメルは目を瞑る。
今日はクロムの結婚式だ。本来なら自警団の一員として、幼馴染として近い距離から祝うべきなのだろうが――
「………………はぁ……」
「……何をしている?」
城に従事してる者、自警団の者は残らず祝いに行っている筈だ。つまり、この場にいるという事は自分と同じく抜け出してきたという意味でもあって。目を開け、ヒンメルはその人物の名を呼んだ。
「……それ、こっちが聞きたいんだけど? ロンクー」
「……あれだけ人が集まれば女も集まるだろう」
「あー」
心底嫌そうに呟く彼を見て納得する。この男の女嫌いも筋金入りだな、とつくづく思う。
「お前は何故此処にいる?」
「何でって……ここにいたら変?」
ヒンメルは自嘲気味に笑い声を上げる。
「……お前なら一番近い位置でクロムを祝うと思っていたのだが」
「どうしてそう思ったの?」
「いつも近くにいるだろう」
「ルフレの方がいる時間が多くない?」
「あいつは男じゃないか」
「ああ言えばこう言う……」
「……それはおまえもだ」
渋い顔をするロンクーにヒンメルはバツの悪そうな顔をする。暫く黙っていたが観念したのか、ポツポツとヒンメルは話し始めた。
「……そりゃ、確かにおめでたいんだけどさ……」
誰よりも近くにいて、誰よりも彼を理解して、昔からずっと一緒で、何でも言い合えて、だが、貴方が好きだという気持ちだけは伝えら得ず終いで――
「……クロムに好きって、言えなかったな、って」
ぱた、と抱えた膝に涙が落ちる。俯き、嗚咽も漏らしながら泣いているとコツ、とブーツが床を滑る音と座り込む音が聞こえた。何だ、と鼻を啜りながら顔を上げると先程居たロンクーの姿が見当たらない。もしかして自分に呆れて帰ってしまったか、と首を横に向けたら視界の端で何かを捉えた。一度膝を抱える体勢を崩して背にしている柱の裏を覗いてみると。
「……ロンクーあんた……何やってんの、そこで」
「女を慰めるには……側に居てやると良いと聞いた。だが知っての通り俺はこの体質だ」
ヒンメルの座ってる反対側の柱に座り込んだロンクーはそれっきり黙り込む。だが、詰まる所これが彼なりの慰め方なのだろう。
「……有難う、ロンクー」
また膝を抱える体勢になってヒンメルは目を閉じる。
今は只、彼の気遣いが嬉しかった。