鉄仮面の竜騎士と支援会話してみた-A
「よし、乗ってみろ」
「う、うん」
また野原に並んで立つ姿があった。
ジェローム監修の厳しい特訓から早数週間。ドキドキと緊張で心拍が上がってくのを深呼吸で抑えながらクロエは目の前で己を見てくる飛竜の手綱を握り、一気に背に登る。
「飛んで!!」
『グォオオオオオオオオオオオオオ!!』
雄叫びと言うよりは咆哮を上げた飛竜はバサリと畳んでいた翼を広げ、羽ばたきを始める。そしてにわかに浮上し始める巨躯。
正面を向いていなければならないのに離れていく地面を見てしまい、クロエの掌がじわりと冷や汗で滲む。ちゃんと掴んでいないと手綱が滑って握り落としてしまいそうだ。
「下を向くな! 前を見据えろ!!」
下から聞こえてきた声にハッとする。そうだ、自分は一体何の為に飛竜に乗る練習をしてきたのだ? 空を飛ぶ為ではなかったのか? その想いが、手綱を握る力を強くさせる。自ずと視線が前に行く。大丈夫だ、行ける。
「行っけぇえええええ!!!」
グン、と一気に向こうに見える山々が小さくなる程高度が増して息が詰まる。目を瞑り、その苦しさに耐えていると少し経ってから、その苦しさがフッと和らいだ。そろそろと目を開けて飛び込んできたのは――
「うわぁ……!」
高度の安定した飛竜の背から見えたのは、小さくなった山々や生い茂る森、遠くに見えるイーリス国外の街など、城の一番高い場所からでは絶対拝めないと思える広大なスケールだった。
海が見えないのは残念だが、それ抜きにしても十分綺麗な景色と言えよう。未来では拝むことの出来なくなった、美しい世界。
「……ありがとね。きみのお陰で素敵な景色が見れたよ」
ポンポンと飛竜の首筋を軽く叩いてやればグルル、と喉を撫でられた猫のような声を出す。そしてクロエの降下の合図で飛竜は地上目指して高度を下げていった。
飛竜が地面に降り立つのとほぼ同時にクロエは飛竜の背から飛び降り、ミネルヴァの傍らで待っていたジェロームの所に駆けていく。
「ジェロームー!!」
「クロエか、どわっ!?」
走った勢いのまま正面からジェロームに飛びつくクロエ。突撃されて多少ふらついたもののそんな彼女をなんとか抱きとめる。
「見てた!? わたしちゃんと空飛べたよー!」
「み、見てた見てた!! だからさっさと離れんか!!」
「あ、ごめん。嬉しくって」
「お前はつい、だけで易々と男に抱きつくのか…?」
それに対して、きょとんとした表情を浮かべるクロエ。そしてブンブンと首を振る。
「? しないしない。ジェロームだからだよ?」
「なっ……!?」
鏡を持って見ていたら、確実に首筋まで赤くなっていただろう。ジェロームはぐいとクロエの体を押して離れさせると背を向けてミネルヴァの手綱を握り、飛竜を収容している小屋の方へと足を向けた。
その後ろをクロエはついて行く。
「ねージェローム、照れてるの? もしかして照れてるの?」
「……照れてなどおらん」
「首筋赤くなってるのに?」
「そうだ」
「強情」
「言ってろ」
「ふふふーっ」
「……何故笑う」
「ん? いや、今度はジェロームと一緒に空へ散歩出来たら良いなぁって」
赤みが引いてきた仮面の青年は微笑を漏らす。
「それは私達が無事にこの世界を救えたらな」
「よっし! 約束だからね、ジェローム!」
少し仮面の向こうが見えた彼と共に、いつか広大な空を飛ぶ日を夢見て。