英雄・聖王議論

「姉様の分らず屋!」

クロエこそ分かっていません!」

 ぎゃあぎゃあと、仲の良い姉妹にしては珍しく言い争いをする声が訓練場から聞こえてくる。なんだなんだと思いながらヒンメルが訓練場に顔を出すと休憩スペースにあるベンチに腰掛けながら口論をする姉妹の姿があった。

「……ちょっと、二人して何口論してるの」

 手にしていた訓練用の木剣で肩を叩きながら、呆れ気味にヒンメルは溜息を吐き出した。
 こちらにやってくるヒンメルの姿を捉えた姉妹が同時に顔をあげて唇を尖らせ、我先にと口を開く。

「お母様、聞いてください!」

「今ね、姉様と歴代の英雄や聖王様で誰が一番素敵かって話してて……姉様ったらマルスが良いって言うの!」

クロエ、貴方はマルス様の良さが分かっていないからそう言うのです」

「絶対アイクの方が良いよ! 蒼炎の勇者なんだよ!?」

「だから! ……はぁ。こんな感じで先程から決着が付かなくて……」

 なる程、そういう事か。
 ルキナはマルスを名乗って未来で戦っていたと聞くし、クロエはアイクを名乗って戦っていたと聞く。幾ら仲の良い姉妹だとしても譲れない一線があるのだろう。しかし、『歴代の英雄や聖王で誰が一番素敵か』という議題ならヒンメルだって一つばかり言いたい事がある。持っていた木剣を地面に突き立て、腕を組んでヒンメルは言う。

「全く……一番素敵な歴代の聖王と英雄って言ったら決まってるでしょ?」

 一体どんな人の名前が挙がるのかと、答えを待つようにルキナとクロエは首を傾げる。

「クロムじゃない」

 訪れる沈黙の後、ルキナとクロエは身を寄せ合った。

(惚気だ……)

(お母様が惚気けていらっしゃる……)

 真顔で発せられたヒンメルのその発言にルキナ達はひそひそと耳打ちし、

「な、何で二人して黙るの?」

 何か間違った事でも言ってしまったか、と一人ヒンメルはオロオロとしていた。


2014/05/04