花咲く笑顔と支援会話してみた-C
「ん……?」
真夜中、クロム達の軍がキャンプしている天幕から少し離れた森の中で。比較的開けた場所で踊りの練習をしていたアズールは視界の端にチラついた『何か』を捉えると、踊りを止めて辺りを見回した。
真夜中の森は静まり返っており、時折吹く風が木々を揺らす。目を凝らしても闇は依然と沈黙を保ったままであり、色が薄まる事はない。
もしかしたら屍兵がやってきていたのだろうか。普段はキャンプ地を決定し、天幕を張る頃には周囲一帯の屍兵を倒しているのだが、それでも時折『漏れ』が出てしまう場合がある。今回がその場合で、いつの間にか接近を許してしまっていたのかと、アズールは静かに動くと近くの木に立て掛けておいた愛剣に手を伸ばし、柄を掴む。そのまま身を低くしてじっと様子を伺っていると、少し離れたところからガサガサと草を踏み分ける音が聞こえた。
「……よーし、そっちか」
そろりと忍び足で移動を開始する。時折小枝を踏みそうになってひやりとする場面があったがアズールは特に大きな物音を立てる事もなく、目的の場所にたどり着けた。
そしてまた身を引くし、周囲の気配を探る。が、
「……? 誰も、いない……?」
屍兵の気配は疎か、人の気配すら感じ取れなかった。不信に思い、アズールは立ち上がって姿勢を正すと辺りを見回す。
けれど闇に慣れた目でも何も確認出来ず、一先ずは、とアズールはホッと胸をなでおろした。先程チラリと見かけたのは屍兵ではなく、この辺りに巣を持つ野生動物か何かの姿だったのだろう。それを屍兵だと思い込み、無駄に警戒してしまった。
少し格好悪かったかなー、と頬を掻きながらアズールは踵を返す。今日は何だか白けてしまった。踊りの練習の続きはまた明日にでもしよう。
そう考えながら天幕のある方角へ足を向け――再度、視界の端に何かを捉えた。
「……!!」
今度こそ、と勢いよくアズールは『何か』を捉えた方を振り向いた。
暗い森の中、動く姿がある。その姿はすぐ木の後ろに隠れてしまって見えなくなってしまったが――姿が完全に隠れる瞬間、その背を追うようにはためくモノがあった。
それはアズール自身、とても見慣れているモノであり。
「今のは……クロエのマント?」
蒼炎の勇者・アイクと同じ赤色のマントだと自慢げに見せてきた事を思い出す。暗闇故にはっきりと断定出来ないが、今ちらりと見えたのは彼女のマントの端だったように見える。
つまり――こんな遅くの時間にクロエが出歩いているという訳で。
「それにしても……どうしてクロエがこんな時間に……」
自分のように何かの特訓……とは考えにくい。クロエが鍛錬するのなら明るい日中、暇をしている誰かしらを捕まえて鍛錬に誘っている筈だ。現に何度もアズールはそういった場面を何度か見かけている。
だからこそ、この時間に彼女が出歩く理由が思い当たらない。強いて挙げるのならば、誰にも知られたくない『後ろめたい何か』をしていると言う事だろうが……。
「……まさか、クロエがねー」
ないない。と一人でツッコミ、今度こそアズールは天幕へ向かって歩き出す。真偽なら明日、起きた後にクロエに会って聞けばいい。そう思いながらアズールは天幕に戻ると就寝をし――
◆◆◆
「……え? 昨日の夜、出歩いてたかって?」
朝に行われた軍議の後、運良くクロエを捕まえる事が出来た。そしてアズールは問い、クロエは首を傾げたあとにこにこと笑う。
「……んー。わたし、昨日は天幕戻ってすぐ寝ちゃったからなー……アズールの見間違いなんじゃない?」
「それじゃあ父様と剣の稽古してくるから!」とクロエは手を振って駆けていく。その背中を見送りながら――
「……怪しい、怪しすぎる」
アズールは小さく呟き、ジトっとした視線を投げた。