花咲く笑顔と支援会話してみた-B
草木も眠る深夜過ぎ。天幕を張っているキャンプ場からほど近い森の中でアズールは息を潜めていた。草むらの影に隠れ、時折周囲をきょろきょろと見回している。今日は踊りの練習場所を探しているわけではない様子だ。その証拠にずっとその場から離れず、たまに耳を澄ませたり、辺りを見回していて。
「よーし……今日こそクロエが何してるか突き止めるぞ~」
今日の目的はそう、先日のクロエの真相を確認する事だった。
此方から聞いても知らぬ存ぜぬの態度を貫き、ならば『何か』をしている現場を押さえる事が手っ取り早いと考えたアズールはこうして度々、キャンプ地付近の森で張っている。しかし運が悪いのかクロエが警戒して来ていないのか、あの日以降森の中でクロエの姿を見かけた事はなくて。
今日も数時間は待機しているが、一向に誰かがやって来る気配は微塵も感じられない。長時間の行軍や屍兵との戦闘で疲労が溜まっているし、眠気もそろそろ限界が近い。もう少し待ってみて来なかったら今日は諦めよう。そう考えながら欠伸を噛み殺していると、離れた所からガサリと草を踏む音がして、アズールは眠たさで落ちそうだった瞼をパッと開いた。
動物の気配ではない。人の気配と足音だ。慎重に歩いているのか、遠慮がちに草を踏む音や枝を踏む音が不規則に聞こえてくる。その音は徐々にアズールの方へと近付いてきていて。
息を潜め、様子を伺う。足音はもうすぐそこだ。
「………………今だっ!」
チャンスだ。そう思ったアズールはタイミングを見計らって草むらから飛び出た。瞬間、月明かりに反射して煌く『何か』がアズールの首元にピタリと当てられる。ひやりと冷たいソレはあと少し力を込めるだけでアズールの命を奪えるモノであり、彼が知る者の愛剣であり。
勢いを付けて抜剣したのか、特徴的な青い髪と赤いマントがふわりと翻る。そうして剣の持ち主は一瞬の間を置いた後、剣を突きつけた人物を認めて目を丸くするのだった。
「ア、ア、アズール!?」
「あ、あはは……こんばんは、クロエ」
裏返った声が、如何に彼女が驚いたのかを語る。困ったように笑いながら降参のポーズをしているアズールからクロエは剣を離し、鞘に収める。そうして仲間の首を刎ねなかったことに心から安堵したのか深く息を吐き、へなへなと脱力した様子でその場にしゃがみこんだ。慌てた様子でアズールはクロエの腕を取る。
「だ、大丈夫!?」
「し……心臓に悪かった……急にアズールが飛び出してくるんだもん……屍兵かと思って身構えてたのに……」
脱力しきった、疲れたような声でクロエはポツポツと呟く。しかし途中で「ん?」と首を傾げると逆にアズールの腕を掴み、ギリギリと力を込めながらクロエは立ち上がった。
「…………アズール、どうしてこんな深夜にこんな森に居るのかな?」
「それは……えーっと……」
にこりと笑っているが、クロエの目は一切笑ってない。その間もギリギリとアズールの腕は締め上げられていて。
「それにさ、さっき「今だ!」って声が聞こえたんだけど? まさか、わたしを待ち伏せしてたなんて事はないよね?」
「いっ、痛い痛い! クロエ、腕が変な方向に曲がりそうなんだけど!!」
「アズールーーーーーーーーーーーー!!!!」
「ごめんってばーーーーー!!!」
真夜中の森に二人の叫び声が木霊する。
結局この日もクロエの真相は分からずじまいだったとか。