花咲く笑顔と支援会話してみた-S
天幕の薄い布越しに太陽の光を感じて、ああ朝か、と認識したクロエはもそもそとベッドから出ると大きく伸びをした。いつもの服に着替え、あらかじめ汲んでおいた水で身支度を整えて。最後にちょいちょいと前髪の位置を整える。鏡があれば楽だろうが、持っている自警団の団員は少ない。
身支度は完璧だ。朝食を食べたら軍議だったかなと思いつつ天幕を出て――クロエはぎょっと身を強ばらせた。
「ア、ア、アズール!?」
「おはよう、クロエ」
クロエの天幕を出てすぐの所に、アズールがいたのだ。これで驚くなという方が難しい話だ。
驚くクロエに対してアズールはいつものように、人の良いにこやかな挨拶を述べる。しかしクロエが直ぐに押し黙った様子を見て困ったように眉を下げ、頬を掻いた。
盗賊の砦でクロエの覚悟を聞いたのが数日前。それから今までの間、顔は合わせど会話どころか挨拶すらしてなかったのだから。
理由は明白で。『あの日』以降、明らかにクロエはアズールを避けるようになっていた。それは自身の後ろめたい行動を知られてしまったからか、それとも。
「…………用が無いなら……わたし、朝食食べに行くから」
無愛想に言い、アズールを避けてクロエは先へ行こうとする。そのクロエの手を取り、アズールは静止の声を掛けた。
「ま、待ってよクロエ!!」
「……?」
訝しげな視線と『もう関わらないで』というオーラ。些か気圧されるが負けるものかとアズールは己を奮い立たせると掴んでたクロエの腕を一度離し、今度はクロエの両手をしっかりと握った。何事かと目を白黒させているクロエにしっかりと。アズールは言う。
「僕は、クロエ一人にあんな重荷を背負わせたくないんだ」
人知れず悪しき人を屠る生活。それはきっと、今は平気でもいずれ心が耐えきれなくて悲鳴をあげるだろう。
「僕は人の笑顔が好き。クロエの笑顔はもっと好きなんだ。太陽みたいに明るくて、人を元気にさせてくれる素敵な笑顔」
ぎゅ、とクロエの手を握る手に少し力がこもる。
「だからクロエにはもっと笑っていて欲しいんだ。陽の下で……出来ればずっと、僕の隣で」
「ア、ズール……」
クロエは俯き、体を震わせている。泣いているのだろうか。
「だから、一緒に背負わせてほしいんだ。君の背負っているモノを」
そう言い、アズールは懐から小さな箱を取り出す。それをクロエに差し出すと、顔を上げたクロエが箱を見てきょとんとしている。アズールはニコリと笑い、手のひらに乗っている『ソレ』の蓋を開けた。
中に収められていたのは至ってシンプルなシルバーリング。しかしそれが何の意味を示しているかなんてのはすぐに理解出来て。
「僕と結婚してくれないかな? クロエ」
「わ……わたしで、いいの……?」
「クロエじゃなきゃダメなんだ」
「っ……!」
堪えていたモノが溢れるように。ポロ、とクロエの頬に伝った涙はとめどなく流れ始め。慌ててアズールはクロエを抱きしめる。
「い、嫌だった!?」
「ちがっ……!! アズールが、こんなわたしでも受け入れてくれるんだって思ったら……涙、止まんなくて……っ!!」
「嫌だったのかと思って焦ったよー……」
クロエの背中をポンポンと叩き、脱力したように笑うアズール。
互いに指輪を填めて、互いの両親に報告へ行くのはもう少し後にしようか。