Sequere naturam
「メンテナンス明けだし、対ハンニバル用の改良だって済んだし……」
エントランスの中央。人の目も気にすることなくグッと胸の位置でムツミは握り拳を作ってみせる。
「もう怖いものなしって感じ!? さあバンバンミッション行くよミッション!!」
「ウゼェくらい元気だな、お前……」
傍らに立つソーマが嫌そうに呟くが、ムツミはケロッとした様子でソーマを見上げる。そして彼の腕を掴むと問答無用と言わんばかりに引っ張り出した。
「当たり前じゃん! やっと体動かせるんだよ? バンバン動いて貢献しないとねー」
「おい……引っ張るな!」
既に発注したらしいミッションにムツミはソーマを連れて――否引き摺ってゲートを潜っていった。ナギサもツバキに命じられてミッションに駆り出されてる様子だ。
「リーダー? どうかしましたか?」
ムツミ達の背を眺めながらぼんやりとエントランスのソファーに座っていると、ひょこっとアリサが覗き込んできた。どうか、とは。少年は首を傾げる。
「なんか…難しい事を抱え込んでる、って顔ですよ。私に出来る事があれば遠慮なく行ってくださいよ? リーダー、すぐに無茶するんですから……」
有難う、そう言えば安心したようにアリサは下に降りていった。
まだ伝えられる筈が無い。とある人物との感応現象で見えた映像。鎮魂の廃寺付近だと思われるところを歩いている『彼』。伝えたところ、ツバキ達に口止めされている事実。
除隊扱いになった雨宮リンドウが生きている可能性がある――なんて、今の段階で言えるはずもなかった。
◆◆◆
リーダーが博士に頼まれてリンドウの『一部』だと断定された仄暗い羽と漆黒の翼の解析が終わった頃、アナグラの神機使い達は一様にエントランスに呼び出されていた。誰もがツバキの話の続きを待っている。
「――以上、DNAパターン鑑定の照合結果から、対象をほぼ雨宮リンドウ大尉と断定。本日一二〇〇を以て捜索任務を再会する!!」
エントランスの二階がワっと歓声で溢れる。しかし冷静にツバキは話を続ける。
「生存自体はほぼ間違いないだろうが、腕輪の制御を失って久しい為、アラガミ化の進行等が懸念される……接触には十分注意を払うように」
「神機使いの、アラガミ化……」
リンドウの生存報告に喜んでいたのも束の間。ムツミは険しい表情をしていた。アメリカ支部にいた頃、事例こそ少ないがその単語を耳にしたことがあった。
「……いい年した迷子の愚弟を…皆、宜しく頼む……」
ツバキの話はここまでだった。一同はエントランスの下に集まって各々話し出す。
「リンドウが……生きてる……」
「サクヤさん……!」
「フン……さっさと見つけて連れ戻すぞ」
「ええ、必ず連れて帰りましょう……必ず」
「よっし! そうと決まれば早速行こうぜ! リーダー!」
意気揚々とするコウタに、「すいません!」とヒバリが声を掛ける。その表情はとても申し訳なさそうにしており。
「第一部隊は通常の任務を前提して、遊撃的な広域調査に当たってください。捜索任務は主に第二、第三部隊に専念してもらいます!」
「えっ!? 何で!」
リンドウは第一部隊のメンバーだ。ならばそれを探すのも、見つけるのも第一部隊である自分たちの仕事だろう。そういう意味を含めてムツミがヒバリを見やれば横合いから声が飛んできた。
「アホ、主力のお前らが全員そっちに行ったらアラガミはどうするんだっての。そう言うこったろ?」
階段に腰掛けて足を伸ばしながらジュースを煽っていたナギサが言う。ヒバリも頷いた。
「は、はい! 強力なアラガミの対処のためにもなるべく長期間アナグラから離れないでほしい、と言うツバキさんからのご指示です……」
「それは、分かりますけど……」
「大丈夫! リンドウさん探すのは任せとけや! 心配しなくても、すぐ見つかるだろ!」
「タツミさん……」
流石は第二部隊のリーダーだけある、とても頼れる発言だ。ヒバリが絡まなければいつもこうなのになーとは思っていても口に出さないムツミ。
「見つけたらすぐ連絡しますよ! ね、ジーナさん!」
「ん……そうね……リンドウさんに帰ってきて欲しいのは、貴方達だけじゃない、って事ね」
カノンがジーナに向かって笑いかけ、ジーナも微笑で答える。
「まあ、新人も入ったことだしな……人手も何とかなるだろう。な?」
『はい!』
ブレンダンが近くに立っている新人二人を見れば、二人は声を揃えて肯定する。
そして少年――フェデリコは恐る恐るという様子でリーダーに近づくとおずおずと切り出した。
「あ、先輩……遠近切り替える為の離脱タイミングとか…色々教えてください」
「あ、わたしも!!」
アネットも片手を上げて意気揚揚と話に加わった。少年も答えられる範囲でなら、と質問に答えていっていて。
柵に寄りかかってたサクヤが前に進み出た。
「うん……そうね。何か変な言い方かも知れないけど、皆……力を貸して頂戴」
「了解だ、そっちも頑張れよー、第一部隊。状況に応じて俺らも随時サポートすっからよ」
そう言ってタツミは少年の肩を叩いた。彼が頷いたのを見てよっしゃ! というと声のトーンを落とし、ヒバリの方に歩いて行く。
「じゃ、ヒバリちゃん……俺が無事リンドウさんを連れ戻したらよ、食事とか……」
「え、うーん……そうですね……」
ぎこちない笑みを浮かべるヒバリ。
「考えなくもないので、頑張ってくださいね?」
「えー……」
リンドウの生存報告の時並みに、笑い声が響いた。