Mors certa, hora incerta
「な、何が起こったの……?」
眩しいほどの白が収束した後、目を擦りながらムツミは周りの状況を確認しようと周りを見渡す。皆も目が眩んだ状態から復帰しつつあるようだった。
「そうだ、リンドウさんとリーダー……!!」
携帯端末を取り出してヒバリに連絡しながら床に倒れ伏している二人に駆け寄る。二人とも大きな外傷も無く気を失っているだけ…とヒバリに伝えようとしたところでムツミは言葉を止めた。否、言葉を失ったと言うべきか。
リーダーの方が全く外傷が見当たらない、良い事だ。しかしリンドウの右腕は肩から先がアラガミ化してた影響なのか異形のソレになっていた。
《ムツミさん? 聞こえますか?》
「……あ、うん! 大丈夫! 取り敢えずこっちに急ぎで医療班回して!!」
その後二、三言葉を交わしてムツミは携帯端末を切ってポケットにしまった。これでもう少しもすれば医療班や応援が駆けつけてくれるだろう。ふう、と息を吐くと張り詰めていた気が緩んだのかムツミはしゃがみ込む。
「……ほんと、良かったぁ」
最良の道を選び取れた事。リンドウが無事だった事。とにかく今はそれだけで胸がいっぱいだった。
◆◆◆
リンドウが無事帰還してから数日が経った頃。ナギサは一人保管庫で己の神機であるブリッツクォレルの前に立っていた。特に意味もなく、ぼーっと神機を眺めてるとエントランスに繋がる扉が開いて誰かが入ってきた。カツカツと鳴る足音は自分の隣で止まった。
「……ムツミか。リンドウの所に行かなくて良いのか?」
「……リンドウさん、今帰ってきたばかりで皆にあれこれ質問されて、近くに寄れないもん」
「ははっ! そりゃ仕方ねぇな」
不貞腐れる妹の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。毎度のようにそんな乱暴に撫でると髪型が崩れる! と抗議すべくムツミは顔を上げ、目を見開いた。
「……お兄ちゃん、なにそれ……」
淡く光るオレンジの光りがナギサを取り囲んでいる、と言うより、ナギサそのものが発光してると表した方が適切かもしれない。有り得ない事象に眉を潜めているとナギサがフッと笑う。
「多分、時間切れってとこだな。『アイツ』も居なくなったんだ、オレの役目も終わりなんだろ」
『アイツ』、『役目』。ナギサが何を言っているのか全く理解できない。だが、彼が居なくなってしまうと言う事だけは漠然とだが理解できた。
「……居なくなっちゃうの?」
「ああ、そうなるな。だけど……」
ナギサはポケットを探り、何かを取り出すとムツミに見えるように掲げた。ナギサが生前大切にしていて、最期にムツミに託した十字架をあしらったネックレスだった。しかししれはリンドウに渡した筈だと疑問に思っていれば「リンドウから返してもらった」とあっけらかんと言う。ナギサはネックレスをムツミに握らせた。
「オレは確かに死んだ。今此処でこうして会話してるのだって奇跡に近い偶然が上手く重なって成り立ってるようなモンだ。だがな、オレの想いまで死んじゃいねぇ。ムツミがオレを覚えておいてくれれば、オレはお前の中で生き続けるだろうよ」
「少しクサい台詞だったか?」と笑うナギサの姿は段々と薄くなり、天に還るように淡い光りの粒子が空を舞う。此処で泣いたら前と同じだ、とムツミはグッと下唇を噛む。
「……私、忘れないよ! お兄ちゃんの覚悟も、苦悩も、想いも!」
「……ああ、ありがとな」
いよいよ周りの空気と変わらないまでにナギサの姿は薄くなっていく。涙を堪え、ニッとムツミは笑ってみせた。ナギサも微笑む。
「最強に素敵で無敵なゴッドイーターだからね! 私、頑張るよ!!」
消えゆく彼に、最後の言葉は届いただろうか。