あなたはわたしのイデア
「リンドウさんの右腕って、もう元に戻らないんだよね」
「あー、そうだな。アラガミ化は抑えられてるが、進行したら治らないからな」
「そっかー……」
と、言いながらムツミはペタペタとリンドウの異形化した右腕を触りまくる。触覚も痛覚もちゃんと通ってるので、ムツミの指が触れる度にこそばゆい感覚がする。
ここがムツミの自室で良かったとリンドウは心の底から思う。もしソーマにでも見られていれば確実に鼻で笑われていただろう。
「いつまで触ってるつもりだ?」
「私が飽きるまでー」
「その……むず痒いんだが」
「我慢」
そう言えば不満そうな声が返って来て。ムツミはクスクスを笑い、それからふぅっと息を吐いた。リンドウの腕をペタペタ触る手が止まり、「どうした?」とリンドウはムツミの顔を覗き込む。するとぽす、とムツミが寄りかかってきた。右腕側に座り、尚且右腕の上から寄りかかってきたので多少不自由だったがリンドウは腕を動かすとムツミの背から腰にかけて腕を通してより引き寄せた。わっ、とムツミの驚く声がする。
「もー、何々?どうしたの?」
「お前こそどうしたんだよ。散々腕撫でてたと思ったらいきなり寄りかかってきて」
「んー……」
疑問をぶつければムツミは唸り、ややあって顔を上げるとへらりと笑う。
「なんか、リンドウさんがちゃんと帰ってきてくれて……こう、心の底から安心してるっていうか、嬉しくて」
「言ったろ?必ず後で戻るってな」
「ははっ、そうだったね」
リンドウが教会に閉じ込められたあの時、先に行けと叫ぶリンドウが約束した。「後で行く」と。時間はとても掛かったが、彼はちゃんと約束を果たしてくれた。
それが只、本当に嬉しくて。
「約束守ってくれたのは嬉しいけど、もう二度あんな思いは嫌だからね!」
「あー、善処するわ」
「善処じゃなくて絶対!」
「こんな仕事やってたらもしかして、があるかもだろ?」
「そうならないように私がリンドウさん守るから大丈夫!!」
「普通逆だろーが……」
それに、とリンドウが続ける。
「好きな女も守れなくて何が男だってな」
「……もー……」
リンドウは勝った、と言わんばかりに口の端に笑みを浮かべ、クシャクシャと照れて俯くムツミの黒髪を撫でた。