太陽を墜とせし者

 ──西暦二〇六五年。
 地上を異形の神々共が我が者顔で闊歩するようになってから早五十年。地上を追われた人間は巨大な防護壁を造り、その中のアナグラに身を潜ませるようになり、防護壁と同じく偏食因子を埋め込んだ鋼鉄で出来た乗り物での移動を余儀なくされていた。
 バラバラバラと、プロペラを甲高く嘶かせながら、猛吹雪の中をヘリコプターが飛んでいく。その小さな鉄の塊は、数人の男女を運んでいた。
 背中に伸びる黒髪をポニーテールにし、白いセーターの上に黒の士官服を身に纏った少女──羽佐間ムツミはつまらなさそうに窓から真白な外の景色を見ているが、時折チラチラと対面に座っている少年へと目を向けている。
 群青のコートを身に纏い、フードを目深に被って瞑目している少年──ソーマ・シックザール。今回の作戦が初陣と聞いた少年は、まだ一六になったばかりのムツミよりも幼い上に最年少ゴッドイーターだった。
 シックザール……極東支部・支部長ヨハネス・フォン・シックザールと同じ名前。
 今まで彼に子供が居るなんで一度も聞いたことがなかった。そしてその子供を今回の任務に初陣として参加させることも──P七三因子を埋め込んだ、よりアラガミに近い因子を持つゴッドイーターだと言うことも。
 P七三偏食因子。人類が初めて発見した偏食因子だ。ムツミに投与されているP五三偏食因子よりも圧倒的に治癒能力・身体能力の向上が見込めるが、人体に馴染まないソレは十二年前に研究が凍結されていると聞く。唯一の実験成功例が、目の前のソーマらしい。
 もう一度チラリとソーマを見やる。やはりソーマはムツミにも他の同乗者にも興味が無いのだろう、石像にようにじっと瞑目している。ムツミはため息を吐いた。
 ヘリコプターに乗ってからはとにかく暇でしょうがない。なんせ目的地まで十四時間もかかるのだから。だからその間ソーマと打ち解けてみようと何度か会話を目論んだのだが……残念ながら「俺に構うんじゃねぇ」とすげなく言われ、仕方なく仮眠したり外の景色を見たりして時間を潰していて。
 思い出すようにムツミが呟く。

「ソーンツァ作戦……ロシア語で太陽って意味だったっけ」

「おー、そうらしいな。勉強してて偉いな、ムツミは」

「えへへー」

「偉いな、ではない。お前もゴッドイーターなのだから他の言語にも精通していろ、リンドウ」

「へいへい、姉上」

 返事が来たのは隣の席と、斜め向かいの席だった。
 雨宮ツバキ、雨宮リンドウ。姉弟揃ってゴッドイーターというこの二人は、ムツミにとってどちらも先輩だった。
 どっちも格好良くて、強いし、頼れる。リンドウは飄々としていてやる気がなさそうに見えるが、そこを含めてムツミはリンドウに好意を寄せている。だからヘリコプターに乗り込む時もちゃっかり彼の隣をキープしていた。仮眠の時に肩を貸してもらえたら万々歳だったのだが、防音と通信目的のヘッドセットが邪魔をして野望に終わった。
 ええと、とヨハネスに言われた作戦概要を思い出す。
 『ソーンツァ太陽作戦』。連合軍が旧ロシア連邦領で計画した、ユーラシア大陸のアラガミ一掃化計画。核融合炉を手動で爆破し、集まったアラガミもろとも殲滅する作戦だ。
 ムツミ達極東支部・第一部隊の面々はその支援──とは聞こえが良いが、体の良い後処理案件だ。ついでに軍人達に愛想良く接待しろとも言われ、ムツミはまたため息を吐く。面倒くさいの一言だ。

 そうこうしている内に真白な世界にぼんやりと小さな灯りが見え始め、それは徐々に数を増やしながら大きくなっていく。目的地である連合軍作戦基地が近づいてきた証だ。
 航空誘導員の振る誘導灯の指示を受けながら、ヘリポートへゆっくりと着地を始める。完全に地面に付いたタイミングでムツミ達はヘッドセットを外し、重たい扉を開いてロシアの地に降り立った。びゅう、と吹き付ける雪吹雪を全身で受け、身震いしたムツミは上着のファスナーを首元まで引き上げる。

「フェンリル極東支部の方々ですね!! お待ちしておりました!」

「お出迎え恐縮です!」

 ヘリの駆動音に負けじと、航空誘導員が声を張り上げる。ツバキも声を張って応じ、四人は航空誘導員に案内を受けて建物の中へと向かう。
 古い木の扉を開けた先は大きなエントランスホールだった。昔に音楽学校を徴発し、そこを軍事基地へと改装したらしい。そこで航空誘導員に代わって別の軍人に先導され、ブリーフィングルームへと向かう。
 薄暗いブリーフィングルームでは既に基地の軍人達が招集されており、綺麗に整列して待機していた。前方のスクリーンにはユーラシア大陸の地図と作戦概要が映し出さ照れいて。しかし屈強な軍人たちのお陰で全くと言っていいほど見えない。
 ムツミたちが入室して後方の壁際を陣取る。一人ひとりが一個大隊に匹敵する戦闘力を持つのが神機使いだが、見てくれは華奢な女子供と若い青年の集まりだ。振り返った軍人達がニヤニヤと嗤い、あるいは小声でヒソヒソとこちらの陰口を言っているのが分かる。
 悲しいかな、神機使いは偏食因子の投与で身体能力も向上している。強化された聴力と、義務だと学ばされた多言語学習の前では手に取るように内容が明らかだった。
 程なくして屈強な将校が教壇の上に立ち、ムツミたちを見ていた軍人たちも姿勢を正す。
 如何に軍が素晴らしいかというご高説から始まり、どれだけ今作戦が素晴らしいものかと朗々に語りだす。その合間にフェンリルの恨み節が混ざって聞こえるのは、『人類を脅威から守る』というお株を奪われたからだろう。
 全くもって面倒臭いし、興味も沸かない。軍人の思想も、体面を保つために自分たちを派遣させたフェンリル本部のお偉い方々の思惑も。
 壁に背中を預け、ムツミは欠伸を漏らす。それを舐めた態度だと受け取ったのだろう。こちらを振り返っている軍人達の陰口が口汚くなった。ムツミは肩を竦める。

「うわー、怖い。きっと向こう、私たちがロクにロシア語なんて分からないだろうって思って喋ってるよ」

「挑発的な態度を取るのは控えろ」

 声を小さくして日本語でそう言えば、手元のバインダーに挟まれた書類に目を通しながらツバキが鋭く制してくる。はーいと間延びした返事をし、ムツミも作戦の概要を聞く姿勢だけは取る。此処に来るまでに何度も書類に目を通したのだ、今更聞いても目新しい情報などない。

「……本掃討作戦は、ユーラシア地区のアラガミを戦略地点である核融合炉に誘導し、爆破させることによって一気に殲滅するという、かつてない大規模な作戦である。フェンリル極東支部派遣の神機使いの諸君には、アラガミたちを戦略地点まで誘導する、いわば羊飼いの役をお願いすることになる」

 ユーラシア大陸全域。どれだけ広大な面積だと思っているのだろうか。そこをたった三人で走り回って一箇所にアラガミを集めて爆破させるくらいなら、他の支部と連携してチマチマと群れを飼った方が圧倒的に効率が良いと言うのに。
 そんなことを思いながらムツミがぼんやりとしていると、座っていたソーマが突然立ち上がった。食い入るように虚空の一点を見つめている。
 どうしたの、と口を開きかけた瞬間。爆発音に続いて下から突き上げるような衝撃がその場を襲った。
 耳をつんざくような警報音にムツミは耳を塞ぎながら顔を顰める。

「なっ、なに!?」

「事故ってワケじゃなさそうだ」

 冷静に言いながら、リンドウは足元に置いた神機ケースを持ち上げる。
 赤い非常灯が部屋を照らす中、教壇に立っていた将校が壁際の通信機へ怒号を飛ばす。ロシア語のソレは状況説明を求めているようだった。スピーカーからは第一種戦闘配備を告げるアナウンスが絶え間なく繰り返され、揺れで姿勢を崩された軍人たちは狼狽しながら周りを見回している。

「ああ、恐らくアラガミの襲撃だ」

 ツバキも神機ケースを抱える。ムツミとソーマも己の神機ケースを持ち上げた。
 将校に確認を取り、出撃許可を得たムツミたちはブリーフィングルームルームを後にし、廊下を走ってヘリポートへと急ぐ。
 先頭を走るリンドウが襟元の無線でヘリのパイロットへ呼びかける。

「こちらリンドウだ! 迎えに来てくれ!」

『こちらはナイチンゲール一〇四。ああ、今そっちに向かってる!』

 オープンチャンネルで返事が来る。ムツミの耳にも内容が聞こえた。

「状況を説明しろ! アラガミなら種別と正確な数だ!」

 その後ろを走るツバキが続いて指示を出す。パイロットが上ずった声で毒づいた。

『ホーリー! シット! 数え切れない! 下はアラガミの大群でいっぱいだ!』

「そんなに……!?」

 ムツミが愕然とする。
 多くて数体だと思っていた。小型種の群れに、大型が何体か。それが数え切れないほどの群れなど、極東でも滅多にお目にかかれない状況だった。
 それに自分たちが到着して早々だ。何らかの意図が働いている気がしてならない。パイロットの報告を受けながらムツミは思案してみたが、判断材料があまりにも少なさ過ぎて判断が出来ない。
 考えるよりも行動が先だ。ヘリポートへ続く扉も近い。考えを頭の隅に追いやり、ムツミたちは扉を開け放ってヘリポートに向かうと、待機していたヘリへと乗り込む。
 少し飛べば目的の場所はすぐに見えてきた。
 巨大な八の形をした、オレンジ色に輝く円筒。恐らく電磁バリアであろうそれはところどころが破れてアラガミの侵入を許しており、その手前ではパラパラと時たま火花のように光が散っている。きっと応戦している兵士の撃っている小火器の光なのだろう。
 おまじない程度にオラクル細胞が練り込まれた小火器など、気休めにもならないというのに。猛吹雪という悪天候でそこまで見えないが、きっと地上では既に骸の山が築かれて居るに違いない。
 それでも、その被害を最小限に食い留めるのが『ゴッドイーター神を喰らう者』の仕事だ。ムツミは神機ケースの蓋を開け、中に鎮座している己の神機を取り出す。
 ツバキたちもケースから神機を取り出し、離陸からずっと開けっ放しの扉から地上を見下ろす。

「うようよいやがる」

「融合の準備が整うまでの時間稼ぎだ。準備は良いな」

「了解です!」

「へっ、羊にしては凶暴そうだぜ」

 リンドウが吐き捨てる。

「行くぞ! 一匹も通すな!」

 ツバキの号令一下、ムツミたちは高度五〇メートル程の空へ身を躍らせた。ラペリングロープも何も身につけていない、その身と神機だけの自由落下だ。
 落下しながらムツミはアサルト型の神機を構え、ホーミング弾を立て続けに発射する。僅かに先に降りたソーマとリンドウの合間を縫うようにして、弾は軌跡を描きながら着地地点にいるオウガテイルの群れの胴を正確に空けていく。
 チラ、とソーマがムツミに視線を向ける。そう年の変わらないルーキーだと思っていたが、第一部隊に配属されている辺りそれなりの場数を踏んでいるのだろう。空中で姿勢を維持しながら的確に撃ち抜く芸当をしてのけるなど、普通ならあまり真似できない。
 オウガテイルの死骸を踏みつけてリンドウとソーマは着地し、前方へと突っ込んでいった。重たい神機を上手く振り回し、まるでアラガミ相手にダンスを踊っているかのような足取りでリンドウはまたたく間に赤いカーペットを築く。その後方でツバキとムツミが的確で精密な射撃でリンドウの倒し漏らしたアラガミを撃ち抜き、屠っていく。
 ──これが、第一部隊の実力か。
 バスター型の神機を振りながら、三人の見事な連携にソーマは舌を巻く。負けていられるかと闘争心が湧き、大きく顎を開けるコンゴウを斬り伏せたソーマより奥へと突っ込んでいった。
 独断先行はよせ、と言葉が飛んでくるだろうかと思っていたが、飛んできたのは神属性のバレットだった。チラ、と目だけ後方に向ければムツミがソーマの方に銃口を向けていて。
 咄嗟の判断力にも優れているらしい。ならば遠慮は要らないと、ソーマは大きく飛んで神機を振りかぶった。
 遠心力を利用してシユウの片翼を叩き落とし、着地するなり横回転して近くのアラガミごと薙ぎ倒す。それでも死ねなかったアラガミが鳴き声を上げて起き上がろうとしたが、後方から飛んできたムツミの銃撃がそれを許さないとばかりに撃ち込まれ、パタリとアラガミの悲鳴は止んでいく。
 リンドウとソーマが数メートルの距離を置いて並走し、それに追いつくようにツバキとムツミの銃撃が空を飛ぶ。みるみるうちにアラガミが駆逐されていくが、築かれた骸の向こうからまだゾロゾロとアラガミが押し寄せてくる。
 時間稼ぎとは言え、長期戦になるだろうか。そんなことを思いながらソーマがザイゴートを叩き落としていれば、何かに気付いたように立ち止まったリンドウが勢いよく後方を振り返る。

「──ムツミッ!!」

 何事か、とソーマも後方を見──不味い、と気付いた。
 ムツミの頭上から襲来する、大きく口を開けたザイゴート。前衛の二人が戻ろうにも、どう見積もったってたどり着く前よりザイゴートが彼女を喰らう方が圧倒的に早い。
 前方を見据えながら、ムツミの神機の銃口がぐるりと天を向く。立て続けに発射されたバレットはザイゴートに無数の穴を空け、血を模したオラクル細胞が降り注ぐ。
 片手でアンプルを取り出したムツミは指の力だけでソレを割り、中身を飲み干しながら銃口を再び前へと向ける。
 ヒュウ、とリンドウが口笛を吹く。

「さっすが、極東随一の制動率を誇る神機使いだ」

 安心したようにリンドウは笑い、再びアラガミへと向かっていく。
 ──なるほど、リンドウは少なからずムツミを大事に想っているらしい。それが仲間意識故なのか、はたまた異性としてなのかは分からないし、別段知ろうとは思わないが。
 改めてソーマもアラガミの群れへと突っ込んでいく。
 そうしてどれほど屠った頃だろうか。神機の下部から排出されたアンプル状のカートリッジをムツミに手渡しに戻ってくると、頭上でヘリの駆動音が聞こえてムツミたちは上を見上げる。
 時間を稼ぎきったのだろうか? しかし飛び立つヘリは無数にあれど、こちらに向かってくるヘリも垂らされるハシゴも無く。
 嘘だろ、とリンドウが毒づく。

「おい! なんであいつら退いて行くんだ!?」

「見捨てるつもりか……!」

「そんな……!」

 ツバキがヘリを見上げて歯噛みする。ムツミの表情はさっと青くなった。
 最初から神機使いを使い潰すつもりだったのだろう。軍部たちの化け物を見るかのような視線と態度から歓迎されていないのは端から分かっていたが、これの仕打ちはあまりにも酷い。

「くそっ……このままじゃもたねぇ!!」

 悔しそうにリンドウが叫ぶ。
 嵐のような激戦で皆体力を消費していたし、手持ちのスタングレネードや傷薬、アンプルもほぼ使い切ってしまっている。未だ防壁の向こうからやってくるアラガミの群れを思えば、状況はかなり絶望的だった。背後の炉心は大きく唸りを上げていて、核融合炉の臨界も近いことが伺える。

「……ムツミ! こっちだ!」

「っ、リンドウさん!」

 目も眩むような閃光と衝撃波が押し寄せてくる。その最中、リンドウは傍らのムツミの手を引いて展開した神機のシールドの背後にムツミを隠し、強く抱きしめてせめて少しでも核融合の衝撃から守ろうとする。ソーマもシールドを展開し、ツバキと共に身を隠した。
 ──死にたくない。そう思いながらムツミは強くリンドウを抱き締める。
 轟音が轟き、鼓膜を叩いて音を奪った後。
 『何か』大きなものに包まれる感覚を覚えながら、ムツミは意識を手放した。


──────
 
「いっ……たたた」

「おい、生きてるか?」

 意識を取り戻したムツミが真っ先に感じたのは、体にのしかかる重圧だった。
 覆い被さるリンドウと、無数の瓦礫。どうやら彼に守られていたらしい。
 上に乗った瓦礫を退かしてなんとか起き上がって見れば数時間は気を失っていたらしく、空は薄い紫色をしていた。朝焼けの空だ。
 そして残っていたのは核融合炉と思わしき瓦礫の山と、軍人たちの死体だけ。アラガミは一匹残らず姿を消しており、大きく抉れた周囲と合わせてまるで──大食いな生物がスプーンで掬い上げてぺろりと食べてしまったかのようだった。
 抉れた穴から救出され、やって来たフェンリル本部の調査部から被爆検査を受けたムツミは、調査部が動き回っている様子を眺めながらタバコを吹かせているリンドウの隣に立つ。

「リンドウさん、聞いた? 私たちがどうして無事だったか」

「いや? やっこさんに聞いても知らない存じないばっかでね」

 核融合の爆発をあんな至近距離で受けて無事だったのは、ひとえに神機使いが頑丈だから、の一言では済まされなかった。何か理由がある。例えば──爆発の瞬間に感じた『何か』とか。それはリンドウやソーマたちも感じていたらしく、事実、核融合の爆発にしては周囲に広がる爆発跡はあまりにも範囲が狭く見えた。普通ならもっと広範囲に広がっててもおかしくはないが、瓦礫にまみれたのは爆心地の中心だけだ。
 何やら厳重そうなジュラルミンケースを持ち、調査部と会話している黒スーツの男が居るが──それはムツミたちの預かり知らぬことだ。
 はあと大きくため息を吐き、ムツミは体を伸ばす。

「んー! それはさておき疲れたなぁー。これからまた極東まで硬いシートに座ってなきゃいけないって考えると嫌になっちゃう」

「ま、帰ったらパアーっと打ち上げでもしようぜ。あ、お前はジュースな」

「それ、リンドウさんが飲みたいだけじゃん! あーあ、私も早くお酒飲める年になりたいなー」

 青さを増してきた空を見上げる。
 愚痴じみたそれは、傍らで浮かぶ紫煙と共に蒼穹へ吸い込まれていった。


 ガタン、と大きく揺れたついでに頭が揺れ、ムツミは目を開ける。
 道なき道を行くためか、いくら運転者の操縦技術が優れていようと装甲車での移動はかなりの揺れが生じる。目が覚めたムツミは大きく欠伸をして傍らの操縦者に声を掛けた。

「おはよ、ソーマ」

「一人でぐーすか寝やがって」

「だってー、ここ最近ずーっと任務で出ずっぱりだったんだもん。ソーマもでしょ? 後で運転交代するから!」

 ね? と小首を傾げれば忌々しげに舌打ちされる。長くなった付き合いで分かる。これは仕方ないという彼のサインだ。だから特に気にすることもなく、ムツミは窓の外へと視線を向ける。
 ソーマの初陣を飾った作戦の夢を見た。その時から比べたらソーマは身長が伸び、ムツミをあっという間に追い越し、あれほど嫌っていた研究職を志すようになっていた。彼も父親と同じ白を纏って。
 対するムツミもソーンツァ作戦の直後にアメリカ支部に異動になり、新型神機に適合するなり極東支部に呼び戻されたり、名字が変わったりもした。
 変化は時の流れと同じだけあった。だけど変わらぬものだって確かにそこにあり。

「えーと……なんだっけ、最近多発してる赤い積乱雲……」

「赤乱雲だ」

「そうそれ! それの調査と、感応種の調査かぁ……」

 ──今日もまた、変わらず地上に蔓延る神々を喰らい続けていく。


2021/02/14