千一夜

 ペリシア・エリアに降り立ち、立ち並ぶ露店の一つで串焼きを買ったアリカは、それを頬張りながら展示されているガンプラ達を冷やかしていく。立ち並ぶガンプラはどれもが完成度が高く、ビルダー達の熱量が見ているだけでも伝わってくるほどだ。
 ガンプラ制作が好きだ。ガンプラファイトが好きだ。そんなアリカにとってGBNとはまさに『好き』を思う存分体現出来る場所だった。だから気づけば上位ランカーと呼ばれるほどに力量は増していたし、その戦闘に耐えられる位のガンプラを作れる程度の腕はある……と自負している。だけど、ビルダーとしての腕前は『アレ』を見てしまうとまだまだだと思ってしまうのも事実で。

「っていうか……あいつ、どこで展示してるんだよ」

 最後の一口を頬張り、アリカは誰にでもなく悪態を吐く。今日ここにわざわざ足を運んだのは、『彼』が新作のガンプラを展示すると事前に聞いていたからだ。しかし探しても姿かたちは見当たらず。串を近くのゴミ箱に放り込むと、遠くで群衆がざわめく声がした。アリカはそちらに目を向ける。

「ペリシアに集うビルダーの皆さん、刮目です! ただいまよりレジェンドビルダー・シャフリヤール様の最新作をご披露します!」

 朗々と宣言する小柄な男性。その側で『シャフリヤール』と呼ばれ得意げにしているのは小太りな男性で。
 遠巻きに眺めているアリカが眉をひそめる。

「これがシャフリヤール様の最新作──作品タイトルは『武装の多様性に垣間見る、善悪の彼岸』!」

 そうして現れたガンプラを見、アリカは言葉を失った。
 言葉を失うほど綺麗な造形だとか、目をみはるほどの出来栄えとかではない──その逆だ。ゴテゴテと武装したザムドラーグは一言で言えば暴虐の塊で、単純にいえば醜悪だったのだ。子供でももっとマシな改造をするだろう。
 バカバカしい。ふん、と鼻を鳴らしてアリカは腕を組む。

「あれがシャフリヤールの最新作? ばっかみたい。造形技術が足りてないから組み立てが甘いし、デザインセンスが皆無のダサい改造! 第一、シャフリヤールは狐耳の格好良いアバターで──」

「おや、私を呼んだかな?」

「ぎゃーー!?」

 背後から伸びてきた手がアリカの肩を掴み、引き寄せる。トン、とぶつかった感覚に首を捻って背後を見やれば、そこには見目麗しい狐耳の男性アバターの顔がする近くにあり。
 グイグイと押してその者の拘束から逃れようとする。が、悲しいかな。仮想空間といえど男女の力量差はあるようで。

「シャフリ!! ちょっと、絡まないでってば!!」

「いやなに、私の顔をみれば何かと突っかかってくる君が私を賛辞する声が聞こえてね。もう少し詳しく聞きたくなったんだよ」

 にこりと微笑み、その男──シャフリヤールは更に顔を寄せる。ともすれば、少しでも身動きしたら唇が触れ合いかねない距離だ。
 アリカとシャフリヤールは旧知の仲だ。特定のフォースに所属せず傭兵の真似事をするアリカも一時期はシームルグに加入していたことだってあるし、彼の作るガンプラの美しさは素直に感心する。ビルダーとしても、ファイターとしても腕を買っているのだ。
 だけど──だからこそか。素直に賞賛するのが癪に障る。この顔で微笑まれると心臓がギュンと唸って脈が乱れ始めるのだ。
 すなわち──シャフリヤールが好きだからこそ、突っかかってしまう。小学生男子のような心理だった。今だって至近距離にシャフリヤールの顔があって、心臓が口から出てしまうんじゃないかと思うほどバクバクと鳴っている。
 そして更に悪いことに、恐らくシャフリヤールはアリカが自分に想いを寄せていることを見抜いているのだ。だからこそ、そうした態度が面白くて、いじらしくて、可愛らしくて。ついついからかってしまう。こちらも小学校男子のような心理だった。

「それで? 今日は私の新作を見に来てくれたのかい?」

「は、はぁ~~!? 別にあんたのガンプラだけが目当てじゃないし! まあちょっと? ミリ位は楽しみだったかも知れないけど!」

「全く、素直じゃない」

「べっつに、素直じゃなくてもいいでしょ」

「まあ、そういうところが愛らしいと思うんだが」

「だっ……誰が!!!」

 バシバシとシャフリヤールを叩く。
 可愛い反応をしてくれるから、明日も明後日も構いたくなってしまうのだ。


2020/09/21