宇宙はひとつずつ消えていく
「レオくーん! ……うーん、居ないなぁ……」
チカリ、と闇夜に浮かぶライトの光がT字路のカーブミラーに反射する。そして左側に伸びる暗い夜道を暫く手持ちの懐中電灯で照らした志希は踵を返し、右側の道を進んでいった。
幼馴染の月永レオが朝からこんな深夜間近まで帰ってこないと彼の母親から連絡が来たのが小一時間ほど前だろうか。時折レオの名を呼びながら志希は暗い夜道を進んでいく。
警察ですら見つけられない程雲隠れの天才だが、志希にとって幼馴染の月永レオを探すという行為はそれ程苦なことではなかった。レオが足を運びそうな場所、『霊感』を働かせやすい場所の目星は幾つか付いている。余程遠くまで行かない限りは自分の力で見つけられるだろうと捜索に名乗りを上げたのだが――
「ううん……この広場にも居ない……」
立ち寄った大きな広場を懐中電灯で照らし、志希は肩を落とす。ならば次はもう少し遠い公園に行ってみるかと志希は歩き出した。暫く歩き、目当ての公園が近づいて来ると聴き慣れた笑い声が聞こえてきてああやっぱり、と志希は公園内に踏み入る。公園の隅に置かれているベンチに腰掛けて一心不乱にメモに書き留める姿があった。それに近づき、志希は声を掛ける。
「わはははっ☆ 霊感が降ってくる! 世界が広がっていく! 無限の宇宙が目の間にっ! あぁあ、名曲が生まれていく~!」
「レオくんってば、こんな所に居た!」
しかし志希が声を掛けてもレオは顔を上げる事がない。聞こえていないのか、走らせているペンの速さは寧ろ増していくばかりで。
「指を咥えて見ていろメンデルスゾーン! 妖精のように踊ってヴィヴァルディ! 綺麗な声を響かせてバッハ! お前は嫌いだモーツァルト!」
ガリガリガリ。速さを増していくペンは限界を超えんとばかりに紙の上を走る。だがそのペンが紙の一番下までやってきた時、レオは高らかにメモを天に突き上げて歓喜の声を上げた。
「出来た! 後世に残る名曲が書けた! ああ、やっぱりおれって天才だなっ☆ ……あれれ? いつの間に夜になってたんだ? っていうか此処何処だ?おれ、いつの間にかUFOにアブダクションされてたのか!?」
そうしてそこで理性を取り戻したのか、いつの間にか目の前立っていた志希に気付いたレオは首を傾げた。志希は仁王立ちすると両手を腰に当てて溜息を吐く。
「まーたレオくんってば作曲に夢中になってたんでしょ……おばさんとかるかちゃん、心配してたよ?」
「何っ!? おれの愛しいるかたんが心配を!? こうしちゃ居られないっ、志希! 直ぐに帰るぞ!!」
最愛の妹の名を耳にし、レオはベンチから飛び降りると急いでメモやペンをポケットに突っ込んで片しだす。それを見守っていると持ち物を全部収めたレオはむんずと志希の腕を掴んだ。驚き、志希は目を開く。
「レ、レオくん?」
「おれ、UFOにアブダクションされてこの公園にたどり着いたから帰り道分からないんだ! 此処まできたって事はお前は知ってるんだろ? って事で、案内頼んだぞ~☆」
「う、うん……そのつもりで来たから別にいいんだけど……そこまで開き直られると逆にこっちがモヤモヤするって言うか……ううん……」
「? 何ブツブツ言ってんだ? あ、待って、妄想するから! 想像の翼を羽ばたかせて考えるから待って! 答えを言わないでっ!」
「答え言わないけど帰るよレオくん」
「お前つまんないぞ!」
唇を尖らせるレオをはいはいと宥め、志希は腕を掴んでいるレオを引きずるように歩き出した。渋々歩き出したレオが志希の隣に並び、機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら歩き出す。
「志希は凄いよな~」
「え、何が?」
この幼馴染の思考の飛躍加減にはいい加減慣れたが、流石にこうも前後の文に脈絡が無いと流石に言いたい事が理解出来ない。尤も、大抵聞き返すと「もっと妄想力を働かせろ!」と怒られてしまうのだが。しかし今日は機嫌が良いのか、はたまた家に帰る事で頭がいっぱいなのか、レオは上機嫌で続ける。
「おれが何処に居てもすぐ見つける所! 魔法みたいにあっと見つけるんだもんな~。志希は魔法使いなのか? 実は魔法の国から修行に来た見習いだったりするのか!?」
「え~、そんな事ないよ~」
へにゃり表情を崩し、志希は困ったかのように眉を下げて笑う。
「だからおれは、安心してUFOにアブダクションされるんだよ」
「いや、安心しないで欲しいなあ……」
がっくりと肩を落として呆れる志希。しかし突然背中に氷水を入れられたかのように肩を震わして驚けばパッと視線を下に向ける。
レオに掴まれていたはずの腕。それが今や普通に手が繋がれているのだ。ごく自然な流れで、それが普通だというように、レオが志希の手を繋いできた。
レオはきょとんとした顔で志希を見やる。
「ん? 何に驚いてるんだ? おれが気づかない内に宇宙人でも見たのか!? どこっ!? どこに宇宙人が居るんだ!? おれ、ちゃんと挨拶出来るようにしたんだっ!」
レオは辺りをキョロキョロと見回し始め、歩きながら宇宙人が居ないかと道の角や電柱の裏などを確認し始める。しかし当然、志希は宇宙人を見つけた訳でもなく。
「宇宙人は見つけてないよ……。ふふ、ちょっとね。レオくんが好きだなあって思っただけ」
「おれも志希の事大好きだぞっ!」
ぶんぶんと繋いだ手を大きく振りながら、レオは夜空に輝く星に届けと言わんばかりに高らかと告げた。