彼氏特権

 パトロールに向かう道すがら、道路を挟んだ向こうの歩道で見慣れた姿を見つけてガストは足を止めた。
 同じくパトロールをしているであろうイルゼだ。声を掛けようかと軽く手を挙げようとして――男性に声を掛けられたイルゼはそちらを向いてしまった。行き場を失った片手が宙ぶらりんになり、所在なさげにガストは頭を掻く。
 何かを聞かれ、何度か相槌を打って笑うイルゼ。自分の前では気弱な表情を見せるが、打って変わって仕事になると快活で人好きな笑顔を浮かべ、ハキハキと受け答えをしている。流石は『AAA』のヒーローだなんて感心していれば、応対の終わったイルゼが男に手を振って去っていく。

「おーい、イルゼ!」

 今度こそ手を振って名前を呼べば、声に気付いてこちらを向いたイルゼがガストを視界に収め、パッと花が咲くように破顔する。外向きではない、気を許した者にしか向けない笑顔を。

(――ああ、)

 信号を探して小走りで駆けていく様子を見つめながら、心の中がじんわりと温まるような感覚を覚える。自分に向ける笑顔も、安堵感も、気を許してくれるところも、全てが愛おしく思えて。

「ガストくん! ……どうかした?」


「あー、いや……何か幸せだなと思ってよ」

「……? ??」

 不思議そうに首を傾げる様子も可愛らしくて。ブハッと吹き出せば更にイルゼは不思議そうにしていた。


2022/07/06