シンデレラグレイ
依頼を終えてグランセル支部を出、ふと空を見上げる。冬の空は空気中のチリやゴミが少ないから高く澄んで見えると教えてくれたのは誰だったか。
蒼くて、手を伸ばせば何処までも届きそうな空。それがどうしても色褪せて見えるのは、きっと傍らにクロウが居ないからだろうか。
灰色の世界。何の感慨も浮かばない毎日。ありふれた日々をただ無為に消費するだけの日々。それはわたしがクロウに会う前に戻っただけだと言うのに。得た物を失った世界は随分と色褪せて見えるし、わたしは灰色になってしまった。
歩き出す。すれ違う恋人の男女や家族連れの笑顔は輝きすぎて、わたしの目は眩んでしまう。それらから逃げるようにそっと顔を逸らした。
例えばの話。わたしがクロウに出会わなければ。出会ってたとしても、恋人関係にならなかったら。私は世界がこんなにも沢山の色で満ちていると知らずに居られたし、離別がこんなにも苦しくって尾を引くなんて知らずに済んだはずだったのに。わたしはただの『怪物』でいられた。居るはずのいないクロウを恨む。
だけど、それと同じくらい会えて良かったと思ってしまうし、思い出を大事にしていきたいと思っちゃうんだ。
感情って難しい。楽しいけど辛い、悲しいけど嬉しい。傍に居たいけど離れたい。そういうオクシモロンが幾つも複雑に積み上がっていて、いつも頭を悩ませてしまう。そう言えば「そういうのが恋なんだよ」とクロウは笑っていたっけか。
クロウとの日々を思い出してしまうと、楽しいと思う反面どうしても辛くなってしまう。クロウが居ないという事実に耐えきれなくなって「わたしも」と後を追いたくなるのに、最期の言葉を思い出して踏みとどまってしまう。「ただひたすらに、前に」。そうしてクロウが守ってくれた世界をわたしも守りたいと思ってしまうんだ。
――だけど。
すんと鼻を啜り、わたしは荷物から取り出したマフラーを巻く。
「まるで、十二時の鐘が鳴って魔法が解けたみたいだよ」
魔法の解けたわたしは、ただの灰被りだ。