引き返せ
異変があれば引き返せ。
異変がなければ進め。
とてもシンプルなルールは、この不可思議な通路を数回歩き進めた所で理解した。異変は一目見て分かりやすい物からよくよく目を凝らさないと分からない物まで。
そして今、通路の先には――
「……はは、」
思わず乾いた笑いが込み上げてくる。
通路の奥。そこに人が立っている。それ はわたしの最愛の人の姿を象っていて、静かに微笑んでいた。
異変と断ずるのは容易い。だけどわたしの足は凍りついたかのように動かなくて、進む事も戻る事も叶わなくなっていて。
「はー……ほんと、最悪」
しゃがみ込んで顔を手で覆う。
頭でクロウの死を理解していても、感情が追いつくとは言っていないのだ。
何年経とうとも。
2025/11/19