拭えぬ瘡蓋に爪を立てる
ゾア=ギルスティンに張り付いたクロウの《ティルフィングS》が弾き飛ばされ、彼の苦痛そうな呻き声が聞こえた時、バレンシアは全身から血の気が失せたような感覚を覚えた。覚えた既視感は、煌魔城でオルディーネが《紅き終焉の魔王》の攻撃で胸部に大穴を開けられた時のソレで。
《バベル》に接続しているラピスを守ることを忘れ、バレンシアは倒れるティルフィングSの下へと駆けていく。誰かが自分の名前を読んだ気がしたが、そんなのはもう耳に入ってこない。
「クロウ! クロウッ!」
軽い身のこなしでコクピット付近まで一気に登ったバレンシアはガンガンとコクピットを叩く。そんなことをしても開かないというのは重々承知だが、逸る感情が理性を隅に追いやっている。
頭の中であの時の光景が蘇る。オルディーネから出てきたクロウが胸を押さえ、そこから夥しい量の血が溢れている光景が。そんなことない、と頭を振って最悪の想像を振り払う。
ややあってコクピットが開く。慌てて中を覗き込めば、弾き飛ばされた時に強く頭をぶつけたのだろう。痛そうに頭を押さえているクロウが視界に映って。
「クロウ、クロウ! 大丈夫!?」
「あぁ、まあな。いってえ……って」
バレンシアが手を伸ばし、クロウは差し出された手を掴んでコクピットから出る。そうしてバレンシアを見やったクロウはギョッと目を剥いた。彼女がボロボロと涙を流していたからだ。
流してる本人も気付いてなかったのか、きょとんとした表情のバレンシアはクロウの視線を目で追って己の頬に触れる。拭っても拭っても涙は溢れてきていた。
「あ、あれ。わたし、泣くつもり無かったのに……」
「……《あいつら》から繋いでもらった命だ。こんなところで捨てたりするもんかよ」
「うん、……うん」
引き寄せて腕の中に閉じ込める。バレンシアの方も縋るようにクロウの背中に手を回してきて。それほど、バレンシアの中でクロウとの離別は根深く刺さっているのだろう。未だに記憶が揺り動かされるように。
何度も頷くバレンシアの頭を撫でてやり、落ち着いてきたところで背中を叩いて離す。離せばすっきりとした表情のバレンシアが居た。
「うし、リィン達と合流すんぞ。っつーわけで肩貸してくれ、さっきの戦いでメチャクチャ疲れちまった」
「ふふ、どーぞ」
苦笑しながらクロウの腕を己の肩に回す。
柔らかな心臓に刺さった棘は、いつか溶ける日が来るのだろうか。