神の門は閉じられた
崩落するバベルの塔の中、最後に見た彼女の表情を思い出す。
悲痛そうな表情をして、ボロボロと涙を零しながらこちらに手を伸ばす彼女。きっと自分たちが去ったあとも泣いて暮らしたのだろう。彼女は存外泣き虫だから。二度と埋まることのない隣の空白を想って頬を濡らしたのだろう。
「――リィン!」
ああ、まだその”名”で呼んでくれるのか。
悲痛そうに顔を歪めていても『今回』は泣かずに、隣の奴の手を固く握り締め、こちらを見送ろうとしている。
同じようで、全く違う。そのことに安堵している自分が居て、場違いな思考に些か笑ってしまう。
崩落の音が強まる。此処も長くは保たないだろう。
「……バレンシア」
微かに笑う。彼女が何かを言いかけるように口を開いた。
「”次”こそは、幸せにな」
去りゆく者から祈りの言葉を。
残される者の旅路に、幸があらんこと。
2022/03/21