白夜のカルナヴァル
容赦のない鋭い膝蹴りを肘で受けて逸らす。その合間に詠唱されていたシャードスキルが炎を象り、ヴァンに襲いかかった。それは咄嗟に詠唱したシャードの壁で防ぎ、ヴァンは一歩更に足を踏み出す。突き出した撃剣と向こうの繰り出したブレードがギャリギャリと甲高い悲鳴を上げながらぶつかり合い、火花が舞う。
一呼吸の間すら油断の出来ない攻防。それを制したのは――
手の内の導力銃が弾かれ、ガシャン、と遠くで落ちる音がする。それを聞きながらバレンシアは首元に当たる撃剣の冷たさを感じ、観念したように両手を上げた。
「こーさん、降参! ヴァンさんたちの勝ち!」
各々の《Xipha》が鳴り、送られてきた文面に目を落とす。『チーム 遊撃士協会 脱落』。
「ほらよ、アークライド。アクセスキーだ」
ジンが持っていたアクセスキーをヴァンに手渡す。これで《アークライド解決事務所》は遊撃士協会が先に入手していた一枚も含め、計三枚所有することとなった。
「もうちょっとやれると思ったけど……流石にそのメンツと人数相手じゃ厳しい。というかズルいかな」
「だよねー。ヴァンさん達だって強いのに、そこに《結社》の《黄金蝶》に《痩せ狼》だよ? 全力で挑まなきゃ無理無理」
武器を収めてジト目でヴァンを見るフィーに、笑いながら銃を回収しに行くバレンシア。人数差とメンバーを承知した上での戦闘だった筈なのに、何故こちらに非があるかのように文句を言われなければならないのか。呆れたヴァンが頭を掻く。
――それにしても。
ヴァンはサッと遊撃士協会のメンバーに目を配る。
《不動》のジンはまだ余力を残している感じだし、《剣の乙女》エレインは乗り気ではない様子で。そこで談笑している《妖精》と《雷速》だって、もう一戦と言われたら応じることが出来る程度には余裕がありそうだ。
つまり、勝とうが負けようが、どちらに転んでも良いように全力を出してないのだろう。それもそうか、と思う。勝てば他のチームや《アルマータ》幹部に備えられる、負ければ地上でフォローと遊撃活動。実に理に適っている。
(……にしても、だ)
違和感が拭えない。その正体を探るようにヴァンはバレンシアに視線を向け――そうか、と納得する。
「あんたたちも余力は残してそうだし……特にアームブラスト、あんたはこういう戦い方不向きだろ」
「おーっと……」
「ふーん……?」
会話を中断したフィーとバレンシアが向き直り、興味深そうな視線をヴァンに向ける。
彼女の得物はブレードと導力銃だ。つまりリーチは近~中。エレインとジンの前衛がいれば中距離で援護やフォローをし、フィーと組めば息の合ったタイミングで前後を入れ替える。A級遊撃士ともなれば、そういった切り替えタイミングや相手が欲しい援護・フォロー、シャードスキルと言ったのを察する能力は高い方だろう。
――だからこその違和感。少しだけ形の合わないものを無理やり型に嵌め込んだかのような。
「集団戦より一騎打ち。正面衝突より奇襲……そっちの方が十八番だろ?」
彼女の『生い立ち』を考えればそう言ったことの方が得意なのも頷けた。
アルノール皇族を守護する『アルノールの双璧』。ヴァンダールが表ならソネットは裏。陰から守護する絶対の剣。
バレンシアの灰色の双眸が、僅かに細められる。
「……ふーん、そういうところまで知ってるんだ。普通、帝国の人でもない人がそこまで調べるのって難しいのに。やっぱヴァンさんって『鼻』が効くのかな?」
ちょん、と己の鼻を触ってみせる。彼女がどこまで察しているのか分からないが、ある程度は気付いているのかもしれない。――ヴァンの『嗅覚』が、人並みではないことに。
「ヴァンさんが見たいって言うならわたしも全力出すんだけど――」
手の内の導力銃をぐるりと一回転させ、グリップを握って構える。一瞬向けられた敵意にヴァンも撃剣を握る手に力を込めるが――
「……な~んてねっ!」
導力銃とブレードをホルスターにしまい、空いた両手を広げてパッと笑って見せる。
表情の激しい移り変わりに面食らっていると、その様子に満足したのだろう。バレンシアはケラケラと楽しそうに笑う。
「ヴァンさん達は先があるし、わたし達だって地上での遊撃活動があるのに、こんなとこで力使い果たしてたら元も子もないってー! ま、本当にやりたい時は手合わせでもしようよ!」
はあ、と脱力する。一瞬身構えた自分が馬鹿のように思えてきた。
さっさと行けと言うようにヴァンはしっしと手で払う。
「遠慮しとくわ。あんたと手合わせでもしたら、首か手の一本は持ってかれそうだからな」
「え~、もがないし斬らないって!」
「ほら、そろそろ上がるよ」
フィーに引っ張られていくバレンシアを見送る。
無邪気に見えて、剣呑さも持ち合わせている彼女。どちらが『本当の姿』なのか……まで考え、ヴァンは思考を止めた。
きっとどちらの姿も真実で、その二つを確立させたのは、鴉の名を持つ男なのかもしれない。