帝国より
「ジュライに里帰り?」
口に運んだチキンソテーを咀嚼し、バレンシアが首を傾げる。
夕食を取っているその最中。互いの今後の予定を擦り合わせていれば、クロウから出たのはそんな言葉だった。
チキンソテーを切り分けながらクロウは続ける。
「おう。 ノーザンブリアが独立すべきかっつー煽りを受けてんだろうな。ジュライの方が少し騒がしいみたいでな、弟分と少し様子を見に行こうってなってさ」
「へー、そうなんだ。どの位?」
「まあ、半年位か?」
「ふーん、結構長いね」
パンに手を伸ばし、ちぎって口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼している様子はあまり悲しんだり落ち込んだりといった様子は見られない。「何でジュライに行っちゃうの!」位の非難の一つ二つは覚悟していたのだが。少し肩透かし食らってしまう。
「何だよ。てっきり俺と離れるのが寂しい~って泣くと思ってたのによ」
「な、泣かないし!」
ニヤニヤとしながら言えば、バレンシアは頬を膨らませてむくれる。元よりそこまで泣くようなタイプでもないし。主にバレンシアが泣く理由を作るのは、この目の前でニヤニヤとしている男のせいだ。
バレンシアはスープの入ったマグへ手を伸ばす。今日の中身はミネストローネだ。
「だって……別に、一生離れ離れになるわけじゃないもんね」
ズズ、と啜りながらジト目で睨む。風向きが悪くなったことを察したのか、誤魔化すようにクロウはパンを齧った。
「そうだよねー。急に居なくなったりしないでこうして事前に教えてくれたし、ARCUSがあればいつでも声が聞けるし、帰ってきたらいつでも会えるもんねー」
「おまっ……人が言い返せねえ部分をチクチクと……」
「ふーんだ」
バレンシアがぷいとそっぽを向く。全てに身に覚えがあるので何も否定できない。
「……だからさ、」
頬杖を付いたバレンシアが呟く。
「確かにちょっとだけ寂しいけど……あんまり心配はしてないんだよ。会おうと思えば会えるし、電話だって何時でも出来る。それに、このアパルトメントに帰ってきてくれるんでしょ?」
ニコリと笑う。
――そう。離れようとも、何処かに行こうとも、このアパルトメントに帰ってくればクロウに会えるのだ。
それだけで嬉しい。別れても、再び会えることが。
そんなバレンシアの笑顔を眩しそうに見つめ、クロウも笑みを零す。
「……そうだな。お前の方も色々忙しいだろうけど、ちゃんと帰って来いよな」
「うん!」
バレンシアの方も、人手不足から共和国の遊撃士協会にフィーと共に派遣される話が上がっている。期間や相手の規模は不明だが、忙しいのは確実だ。
チキンソテーを頬張りながら、クロウが思案する。
「……どっちも忙しくなる前にやっちまうか」
「ん? 何を?」
「挙式」
「あー挙式…………ふぇ!?」
水を飲んでいたバレンシアが思わずグラスを取り落としそうになる。少しタイミングがズレてたら口に含んでた中身を吹き出していたかも知れない。
「選んどけよ、着たいドレス」
「いや、それも大事だけど。あの、あのさあ……」
真っ赤になったバレンシアがしどろもどろとする。今にも目をぐるぐると回して頭が沸騰しそうな様子が面白くて喉で笑えば、からかわれていると気付いたバレンシアが 頬を膨らませた。
「もーっ! クロウのばか!」
照れ隠しのようにパンを勢いよく齧る。やはりコロコロと表情の変わるバレンシアは見ていて楽しい。
ぷんぷんと怒るバレンシアを後目に、どんな色のドレスが似合うか考えながらクロウは食事を進めるのだった。