先手必勝
「もし、お前が俺の好意を受け取らない理由として、お前の寿命が関係しているのなら」
エリマの肩を掴み、アスランは正面から彼女を見据える。勝ち気に煌めく赤色の瞳が、その動揺を表すかのように揺れていていた。
視線が左右に数往復し、エリマは気不味そうにアスランから視線を逸らす。らしくない彼女の動きを見て、やっぱりなとアスランは確信するのだ。この想いにエリマが応えるには、その前に横たわる《生存限界》が障害なのだろうと。
だからアスランはきっぱりとした強い口調で続ける。
「一旦、お前が人並みに生きられると仮定した上で考えてほしい。――お前は、どうしたい?」
「私、は……」
視線を逸らしたまま、エリマは暫し思案する。
もし人並みに生きて、人並みに死ねるのなら。その時、傍らには――
「お前が……アスランが側に居てくれたら……と、思う」
こんなにもしっかりと想いを告げてくれて、側に居たいと言ってくれるのだ。ならば応えたいと思うし……何より、アスランは嫌いではない。
限りなく小さい声で呟いたと言うのにしっかりと聞き届けたのだろう。エリマを強く抱き締めたアスランは心の底から愛おしそうに呟く。
「……だったら、俺と一緒に生きてくれ、エリマ。お前のことが好きなんだ」
「だが……」
「お前の寿命が尽きるその時まで、それからも想っていたいんだ。駄目か?」
僅かに上体を離し、エリマの顔を窺う。真っ直ぐに射抜いてくる緑の瞳が眩しくて、こそばゆくて、エリマは僅かに俯いた。
それから。絞り出したかのような小さい声で呟く。
「駄目……じゃ、ない」
「その言葉が聞けて良かったよ」
柔和に微笑み、エリマを解放したアスランは「それじゃあ」と言いながら上着の内ポケットから何やら紙片を取り出す。
「これが俺とお前が暮らす家の証明書だ」
「は?」
更に紙を取り出す。
「こっちが婚姻届」
「おい」
「お前の住所をこの家に変える手続きがこれで……」
「待て」
思わず顔を上げれば、悪戯が成功した子供のような笑顔と目が合い。
まさか……まさか……。
「お前……ハメたな……!?」
「何のことだか分からないな」
しれっと言いのける。
前言撤回など出来ないだろう。悔しくて悔しくて、悔し紛れにエリマはアスランの肩をしばいた。