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フラジールの証左

 隣で眠る女に手を伸ばす。
 外で活動するのが多いと言うのに悍ましいほど白い肌には、相手の返り血と己の刻んだ所有印が良く似合う。胸元や首に散らばる赫い華に視線を落とし、胸の奥に沸く優越感と征服欲に僅かに口角が上がる。──こいつは俺のだ。
 伸ばした手が首に触れ、戯れにその指を掛けてみる。ほんの少し手に力を込めてみれば、寝苦しいと感じたのだろう。頭がこてりと横に動く。
 そのまま手を下へと滑らせ、左胸の下へと触れる。ドクドクと規則正しく鼓動を刻むそこに刃物を突き立てれば、今すぐにでも彼女は死んでしまうだろう。
 首も、心臓も、体の他の急所も。常人なら触らせないどころか近付かせやしないのに、自分にはいとも容易く隣を明け渡し、緊張の糸を緩め、触らせてくる。その特別感にほくそ笑まない者など居るのだろうか?
 きっと彼女はこの仄暗い感情を抱いていることなど知らない。知らなくて良いのだ。この感情は自分だけのもの。理解もしなくていい、されなくていい。

「……他の者に最期をくれてやるなよ」

 首から手を離し、ごろりと隣に寝転がる。朝はまだ早い。

 ──こいつの最期を飾るのは、俺だ。


2023/03/21

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