信心神
「ねぇ、あんたって神が居るって信じてる?」
同じ部隊の傭兵が運転する移動装甲車に揺られながら、Wは何となく隣の席のディガンマに問うた。
ディガンマが窓の外を見つめる。そうして暫し考え込んだ後、
「……イェラグ、炎国。そこでは神に等しい存在が居ると聞く。ラテラーノだって『何か』を祀ってるだろう。けど、お前が聞きたいのはそういう事じゃないんじゃないか?」
「あら、よく分かってるじゃない」
Wが満足げに笑う。もう何年も共に数多の戦場を超えているのだ。相手の戦いの呼吸も、それ以外も、手に取るように理解出来る。
Wがすらりとした足を組む。
「あんたって神さまは信じるタイプ?」
「目に見えないモノを信仰してどうする。祈った所で戦況は変わらない。願った所で仲間は死ぬ。そんなモノに祈る時間があれば、俺は目に見える力を信じるな」
「まあそうでしょうね。だったら信じてるのはその刀ってとこかしら?」
ディガンマは傍らのWへ視線を向ける。
「お前」
迷いなく放たれた短いその単語に、Wは余裕そうだった素振りを崩して嫌そうに眉根を寄せた。そうして懐いて足元に擦り寄る羽獣を追い払うようにひらひらと片手を振る。
「止めて。あんたにとってあたしは神さまってワケ? そういう重たいの、嫌いなんだけど」
神のように祈られ、崇められるなんてゴメンだ。そんなモノはラテラーノに居るサンクタ共に任せて置けば良いのだから。
「お前の命令を信じてる。お前の力を、能力を。だから俺はお前に付いて行くんだ」
ディガンマが信じているモノがあるとすれば、それは己の得物でもある刀と――Wだ。金と損得でしか成り立たない傭兵同士の関係で、唯一無条件に信じられる相手。だから信じるモノを神だと言えるのなら、ディガンマにとっての神はWなのだろう。
ディガンマが微かに笑う。
「……まあ、そういう意味ではお前は俺にとっての神なのかも知れないな」
「勝手に人を神さま扱いしないで」
すっかり機嫌を損ねてしまったようで、Wは不満げに鼻を鳴らすとぷいとそっぽを向いてしまった。そんな様子ですら愛おしいと思ってしまうのだから恋とは恐ろしい。
腕を組み、ディガンマはうたた寝する態勢になる。次の戦場までまだ時間が掛かるだろう。そうしてゆっくり微睡んでいく中、ディガンマは願うのだった。
――俺だけの神さま。どうか俺一人だけに祈られていて。