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釘と金鎚

 見られているな、と思う。
 鏡ダンジョンの休憩エリアで端末を操作していたダンテはその手を一旦止める。
 チラチラと見られているというより凝視だ。ガン見。背中にチクチクと視線が刺さり、端末に幻想体の情報を打ち込む作業が一向に進まない。

《ええと……ラウィニア? どうかした?》

 耐えかねてダンテは背後を振り返る。すると忠実な従者のように少し後方に控えているラウィニア――正しく言えばN社の大鎚人格を被った、分厚い鎧を纏っているラウィニアがにこりと笑いかけてきた。

「ダンテ様……つかぬことをお聞きするのですが」

《何かな?》

 いつも朗らかで気安いラウィニアが、こうも畏まっているのは座りが悪いような感覚を抱く。けれどこれがN社の《釘と金槌》に在籍している――全てを信仰に捧げた世界のラウィニアのあり方なのだろう。
 ラウィニアの視線がダンテの時計頭へ注がれる。

「ダンテ様の頭は……仮面なのですよね? 醜悪で不潔極まりない義体なんかではないのですよね?」

 この時計頭が《義体》の区分に入るかどうかは不明だが、取り敢えずとしてダンテは囚人達がN社の人格を被っている時は仮面という事で通している。奇異な瞳で見られたり紛らわしいと言われるが、仮面と称さなければ彼らが握っている片手剣ほどの釘で頭をカチ割られるのは火を見るより明らかなのだ。

《そ、そうだけど》

 なので時計頭を縦に振る。緊張で秒針が早くなってないか不安だ。
 その真意を図るように、無い顔を見ようとするように暫しラウィニアはじっとダンテを見つめていたが、パッと破顔すると嬉しそうに手を叩く。

「……そうでしたか! そうですよね! 我らを率いるダンテ様がまさか醜悪な義体であるなど、ありませんものね!」

 朗らかにラウィニアは笑う。しかしその目は笑っておらず、何処までも狂気で濁ったままだ。
 ラウィニアは腰に下げている釘の柄を握る。もしかして嘘がバレたのか……とダンテが内心で冷や汗を掻いていれば、ラウィニアはダンテの横を通り過ぎて次のエリアに向かおうとしていた。
 ダンテが付いて来ない事に気付いたのか、立ち止まったラウィニアが肩越しに振り返る。

「ダンテ様? 握る者の号令が掛かりましたよ。さあ、次なる罪業と汚物の浄化へ向かいますよ」

《……今向かうよ》

 端末をしまい、ダンテも続く。
 ……次の休憩エリアでラウィニアの人格をリウかディエーチに変えよう。


2024/04/05

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