恫喝のすゝめ
「いや~、慣れない啖呵切るシンクレア可愛かったなあ~」
マカジキ港にあるクラブから出てきながら楽しそうにラウィニアが笑う。その隣を歩くシンクレアはそれを褒め言葉として受け取っていないらしく、不満げに眉根を寄せている。
「か、からかわないでください……」
「だって、本当に可愛いんだもん! シンクレアみたいな子から『ドタマ』って……! 相当頑張って言ったんだなって思うと、こう……可愛い! ってならない?」
「なりませんよ……!」
クスクスと笑うラウィニアにシンクレアはいよいよ怒ってみせる。が、普段は気弱で大人しく、ラウィニアからしてみれば年下の男の子が怒った所で痛くも痒くないのだ。寧ろ小動物が威嚇している様に思えてますます可愛らしいと思ってしまう。
「じゃあ!」とシンクレアが声を上げた。
「ラウィニアさんが脅すならどうやってやるんですか!?」
「私?」
己を指差せばシンクレアが首肯し、ラウィニアはそのまま立てた指を顎へと当てて思案する。
「そうだなあ……」
歩き進めながら暫く思案したラウィニアは一つ良案を思いつくと一度立ち止まり、上着から手帳を取り出してページを破った。破ったページに何かを書き込み、それを更に短冊状に細く、何枚かに割いていく。
短冊状になったそれを三枚、トランプを提示するように広げてシンクレアへと差し出した。
「じゃあシンクレア、どれか選んで」
「今の話と何の関係が……?」
「良いから良いから!」
そう言われたので、仕方なくシンクレアは適当な一枚を引き抜いた。会話の流れを汲めば「どうやって脅すか」や「オススメの拷問方法」とかが紙に書いてあるのだろうと思いながら紙を裏返し……。
「シ協会、ですか?」
おっ、とラウィニアが声を上げる。
「じゃあスパッと斬る感じね」
「もうそれ脅しでも拷問でもないですよね!?」
「因みに残りは『N社』と『良秀のミートパイ』だよ」
「チョイスが凄く嫌です! 他に無かったんですか!?」
一頻りツッコミを終えた後、息を整えたシンクレアは結論を出す。
「分かりました……ラウィニアさんがそういう事に向いてないのが」
「あはは。まあやれって言われたら頑張るけど!」
カラカラと笑い、ラウィニアが歩き出す。その姿を追い掛けながら「任されたはいいけど、うっかり勢い余って対象を殺してそうだな……」と嫌な想像をしているシンクレアであった。