メロすぎ注意報
「なあズーゴン……」
名を呼ばれたズーゴンは傍らに立つ男へ一瞥を向けた。
ズーヨウ。同じ主君に仕える、《黒獣―寅》の男。チォウの臣下とだけあってそれだけの実力者なのだが――
「やっぱりよぉ……主君ってめちゃくちゃメロいよな」
どうにも頭のネジが数本外れているらしい。
また始まったか、と扇で口元を隠しながらズーゴンは密かに溜息を吐いた。そんなことも知らずにズーヨウは己の顎に指を添えて、しみじみとしながら話を続ける。
「もう何してても格好良い。そこで佇んでるだけで格好いいってもう何らかの禁忌に抵触するだろ」
「そなたは口を開けばいつもそれだな。よくもまあ主君に向かってそんな俗っぽい言葉を……」
「いや! だってメロいんだから仕方ねぇだろ!?」
力説されたところでだ。この戯言に反応しなければ良いだけの話なのだが、今は自分たちしか居ないので耳を塞ごうにも無視しようにも出来ず、ズーゴンはただただ呆れるしかなかった。
その後もズーヨウによる、如何に主君であるジア・チォウが格好良いかの話は延々と続いてズーゴンは適当に相槌を打っていたが、そんな与太話は行動を別にしていた主君が戻ってきたことによって中断された。やっと解放される、と思いながらズーゴンは近付いてきたチォウへ頭を下げる。
「お帰りなさいませ、主君」
「ああ」
顔を上げながら、ちらりと隣を盗み見る。一瞬前のだらしない笑顔を浮かべていたズーヨウは何も存ぜぬといったような澄ました表情で会釈をしており、実に小憎たらしい。
チォウに付き添っていたズールゥも戻り、さて次の目的地に移動しようかとしたその時。チォウはその視線をズーヨウへと向けた。
「ズーヨウ」
「はい。何でしょうか、主君」
「お前がよく口にしている……あの言葉はどういう意味だ」
は、と間抜けた呼気がズーヨウの口から零れる。
「それは……ッスねえ……もしかして……」
嫌な汗がドッと一気に吹き出してくる。待ってほしい。
違ってくれ、と願いつつズーヨウは恐る恐る、それを口にする。
「メロ……い……ってヤツスかねぇ……」
「ああ」
終わった!! ズーヨウは脳内で頭を盛大に抱えた。
バッチリ聞かれていたらしい。俗っぽい言葉で偉大なる主君を褒めている様子を。傍らの二人なんて見てほしい。ズーゴンは扇で上手く口元を隠しているが肩を小さく震わせているし、ズールゥはチォウが肯定した瞬間フッと小さく吹き出していたのをズーヨウは聞き逃していなかった。
ダラダラと汗を掻きながら、なんとか説明しようと視線を左右に彷徨わせてズーヨウは言葉を探す。その間チォウは辛抱強く、じっと言葉を待っている。
「そう、ッスね……兎に角俺が主君を大好きで尊敬している……みたいなニュアンスと言いますか……」
「……そうか」
それで聞きたい答えを得たのか、僅かに首肯したチォウは踵を返して移動を始めた。こんな説明で良かったのかと不安になりつつも、ズーヨウも後をついて行く。
――この時のことを後々ズールゥは語る。
分かる人にしか分からないが、この時のチォウは心做しか機嫌が良さそうだったと。