黒獣‐酉
《黒獣‐酉》が借りている宿屋。その一部屋の扉が開け放たれ、戦いに出ていた一団がぞろぞろと戻ってきた。その音と噎せ返るような血の匂いに気付き、壁に寄りかかって目を閉じていたシンクレアは瞼を持ち上げる。
どうにも今回の《砂場》は餌が豊かだったようだ。戻ってきた酉達は出撃した人数の半分にも満たないし、誰も彼もが血塗れで、手足の数本が飛んでいったり捻じ曲がってしまっている。戻ってきた酉の中に探している者の姿を見つけようとしていると、向こうもシンクレアを探していたのだろう。集団の中でも目が合い、一先ずは生きて戻って来たことにシンクレアは安堵した。
片足を引き摺りながら、顔から髪まで全身を血で汚したラウィニアがゆっくりとやって来る。顔を覆う眼帯を下げてラウィニアは笑ってみせるが、かなり疲弊しているのだろう。笑顔に普段程の覇気がない。
「……随分と派手にやりましたね」
「へへ……これ、半分くらい筆頭からの傷ね」
話を聞き、また始まったかとシンクレアは辟易していた。今の筆頭は確かに実力者だが、頭に血が上りすぎると仲間の酉達すらも巻き込んで殺す節がある。
体を痛そうに引き摺りながら、ラウィニアはシンクレアの隣へ腰掛ける。薄く、粗末な木張りの壁に背中を預ければ疲れを吐き出すように長い息を吐いた。
そのままシンクレアの方へ体重を掛けるかのように頭を預ける。酉のモデルとなった鶏らしいふわふわの外套が心地良い。
「先に身を綺麗にした方が良いですよ」
「んんー……丸が効いて動けるようになるまで、ちょっと……」
外套へ更に頭を埋める。それっきり死んだように眠りに付いたのでシンクレアは一瞬不安を覚えたが、小さく寝息が聞こえてきたので一先ず安堵した。
シンクレアも瞼を閉じる。外套越しに伝わってくる僅かな体温と体の重みが心地良かった。