VD2026
LCBにも休日というのは存在する。ある囚人は自室で過ごし、ある囚人たちはバスで談笑したり暇を潰したり、バスの現在地が巣の中や裏路地なら買い物に出る囚人と、各々が自由に休暇を満喫する。
「たっだいま~!」
明るい声音と共に、買い出しから帰ってきたラウィニアがバスに乗り込んでくる。座席に座ってPDAに打ち込む作業をしていたダンテと、チェス盤を囲んでいたイサンとシンクレアが顔を上げた。
見れば、ラウィニアは大きな紙袋を腕から四つも提げている。これがごく普通の女性ならば中身は服だったり化粧品だったりするのだろうが、生憎紙袋の持ち主は〝あの〟ラウィニアである。重たそうに揺れる紙袋の中身が全て食品であろうことは想像に容易かった。
紙袋をゴソゴソと漁りながら、ダンテの横まで来たラウィニアは何かを差し出す。
正方形の、薄い箱。丁寧にリボンが巻かれたソレはプレゼントであることが窺えた。
「はい、ダンテ。これバレンタインね」
《有難う。これは……ハンカチか?》
「そう! 皆にチョコ買ってきたんだけど、ダンテは食べれないじゃん? だからダンテはハンカチね。開けてみてよ。可愛でしょ~それ」
受け取って中身を改めてみれば、中身はチョコレート色に蛍光ブルーが差し色の――男性が使うにしては少々可愛らしいチョコミント柄のハンカチが綺麗に収められていた。
まあ、これもラウィニアなりの気持ちなのだろう。チョコを受け取っても確かにダンテは食べられないし、ハンカチの柄もこの季節に因んだ物と考えればまあ……妥協の範囲かも知れない。
ダンテの視線が手元のハンカチからラウィニアが提げている紙袋へ移動する。
《もしかして、その紙袋の中身って全部チョコレート?》
「全部じゃないよ!」
心外だと言わんばかりにラウィニアは眉を上げる。
《まあ、流石に全部チョコレートは多すぎか……》
「クッキーと飴もあるの」
《全部食べ物なのは合ってたんだ……》
やはり紙袋の中身は全部食べ物だったらしい。
ラウィニアがダンテの横を通り過ぎていく。
「イサン、はい」
「あな、かたじけなし」
小さな袋を紙袋から取り出し、両手を差し出したイサンの手のひらに載せる。受け取ったイサンは菓子が入っているであろう包みを嬉しそうに眺めていた。
ラウィニアがキョロキョロと周囲を見回す。今この場に居るのはこの面子だけらしい。
「他の皆は? 部屋かな?」
《ロージャは化粧品を買いに行ってて、グレゴールと良秀は煙草の買い出し。他の皆は各々の自室に居ると思うよ》
「じゃあ夕飯の時に皆に渡せば良いかな……で、これがシンクレアの分ね!」
「あ、有難う御座います……」
はい、と手渡されたのは黒色の、長方形をした薄い箱だった。まじまじと眺めてみるが、どうにも高級品感が漂っている。何よりイサンのよりも立派な気がする。
受け取っても良いのだろうか、という気持ちが先行する。もしかしたら別の誰かにあげる物と間違ったのかも知れない。
「あ、あの……これ、本当に僕が受け取って良いんですか?」
ラウィニアが屈託なく笑う。
「そうだよ! 因みにね、皆にあげるチョコはそれぞれ違うやつなんだ~。イサンにあげたのは鳥の形したチョコね」
「ふむ……いと美しきチヨコレィトかな」
丁度中身を確認したらしいイサンが感嘆の声を上げる。視線を向ければイサンの手のひらにちょこんと収まるように、小鳥を模したチョコレートが載せられていた。なかなか精巧に作られている。
シンクレアは手元のチョコレートに視線を戻す。
ラウィニアは皆に用意したと言っていた。だからこのチョコレートも普段からのお礼程度の意味しか含んでいないかも知れない。
けれど……大切に想っている人からの贈り物はいつだって特別だ。嬉しく思っていればシンクレアの肩がつんつんと突かれる。
「ね、シンクレア」
ラウィニアの顔が耳元に寄せられ、こしょこしょと囁かれた。耳に掛かる吐息と声に心臓が早鐘を打つ。
「シンクレアのやつだけ、ちょっと特別だからね」
「……え?」
シンクレアがその言葉を理解するよりも早く、ラウィニアはするりと離れていく。内緒と示すように口元に人差し指を当て、荷物を自室に置きに行くのかバスの後方へと向かっていった。
後に残されたのは、頬を紅潮させるシンクレアのみ。
「シンクレア君、体調にも悪しや?」
「な、なんでもないです……!」
不思議そうに首を傾げるイサンの追求から逃げるように、顔を腕で隠したシンクレアはバタバタとラウィニアの後を追うように自室に駆けて行った。