VD2023

「ねえ、僕に何か渡す物はない?」

 授業を終えてペイル寮に戻る道すがら。並び歩きながらにこやかにそうエランに問われ、リーセリットは隠すこともなく渋面を作った。

「……普通、男性が女性に花とか渡す日でしょ」

「近年は女性が男性にチョコを贈る文化もあるじゃないか」

 知らないとは言わせないと畳み掛ければリーセリットは増々眉間の皺を深くする。
 無論、知っている。去年までは自分から率先してエランに贈っていたのだから。そう、エラン4号に。だけどそれがそのままエラン5号に贈る理由にはならない筈だ。
 と、リーセリットの手にエランの手が一瞬触れた。かと思えば手の甲でするりと撫でられ、緩慢な動きで握られる。リーセリットの手がびくりと震えるが、振り解かれる様子はない。ちらりと横目で様子を伺って見れば耳まで真っ赤にしていて。
 なんて可愛いんだろう。愚かしい程に。
 指を絡めて恋人繋ぎにし、リーセリットの耳元に口を寄せたエランが囁く。

「それで、僕の分は?」

「……絶対十倍返しにしてもらうんだから」

「へぇ、たった十倍で良いんだ」

「訂正。百倍」

 幾ら数字を跳ね上げたって効果が無いというのに。
 楽しみだと呟けば悔しそうな呻き声が聞こえ、喉を鳴らしてエランは笑った。


2023/02/14