お気に入りの君へ
「どうして付いてくるワケ?」
歩みを止め、うんざりしたようにリーセリットは振り返ったその先。目が合ったエラン・ケレス――もとい強化人士5号も立ち止まり、小首を傾げて微笑む。まるで天使の如き柔らかな笑顔だが、そんなエランとは対称的にリーセリットの表情は苦くなっていく。
エランがそんな表情をすると思うと怖気が走るし、エランはそんな表情をしない。少し微笑むくらいがグッと来るのだ。
……と、まあ、そういう話は置いておき。
休暇を利用して買い物をしに街に出てきたまでは良かった。買いたい服や見たい靴があったから。それに彼まで付いて来たのが問題なのだ。
リーセリットの視線を受けても尚、エランは笑う。
「だって、『婚約者』だろう? 君の買い物に付き合うのが当然だと思うけど」
「頼んでないし、来てほしいなんて言ってない」
「釣れないなあ」
クスクスと楽しげに笑う。その笑顔はまるで天から使わされた天使のようだ。
エラン・ケレスの顔が良いという事はリーセリットも認めている。しかも、好みかそうでないかと問われれば「好みだ」と答えるしかない部類だ。
笑うエランは大変魅力的だ。しかしリーセリットが好きなのはたった一人だけだし、5号の性格はいけ好かない。故に癪なのだ。色々と。認めるのが。
ふんと鼻を鳴らしてエランから視線を外し、歩き始める。そろそろ贔屓にしている洋服店が見えてくる頃合いだ。
「ねえ、僕が服を選んでも?」
「なんで」
「綺麗に着飾る君を見たいし、君の好みを知りたいから」
隣に並び、「駄目?」とエランが顔を覗き込んでくる。覗き込む角度も甘い声も、計算づくなのは分かりきっている。それが抗いがたいのも知っている。なので――
「絶っ対、来ないでよね!」
ビシッと指を突き付けて走り去る。逃げるが勝ち、関わらない方が賢明だ。
走り去っていくリーセリットを眺めながらエランは小さく呟く。
「……まあ、こっちも押せばいけるかな」
顔を赤らめていれば、こちらの嗜虐心と興味を煽るだけだと言うのに。