傷跡一つ、身体は二つ

ペイル社がエアリアルを手中に収めようと画策している事も、その為に5号がスレッタに近付いているのも知っている。そして悉く失敗し――5号に後がない事も。
 ソファに座り、思案している様子のエランにリーセリットが声を掛ける。

「焦るなんてあんたらしくない」

「……『僕』らしくないって?」

 その言葉は今の彼にとっては明確な地雷だったのだろう。立ち上がったエランはリーセリットの所までツカツカと歩み寄ると壁際まで追い詰め、逃げようとするリーセリットの退路を塞ぐように両手を壁に付く。不機嫌さを隠さずに見下ろせば、負けじと睨み上げる勝ち気な視線とぶつかった。

「ねぇ、『僕らしさ』って何? いつも余裕そうに振る舞っている僕? それとも君に優しい僕の事?」

「ちょっと……」

 たじろぐリーセリットの手首を強く掴み、壁に縫い付ける。痛みに眉を寄せる彼女を見、少しだけ溜飲が下がったような気がした。

「僕の事、分かったような口ぶり――鬱陶しいよ、そういうの」

 そう吐き捨て、パシンと手酷くリーセリットの手を離したエランは踵を返して部屋を出ていく。
 その背中を見つめ、手首を擦りながらリーセリットが呟いた。

「……本当に鬱陶しいって思ってるなら、はっきり嫌いだって言ってくれたら良いのに」

 その方が、中途半端に生まれてしまったこの情だって綺麗に捨てる事が出来るのに。


2023/05/19