二人ぼっちの世界で、君と
※20話時点で書いたものです。
「ねえ、目的地まであとどれ位歩くの……?」
疲れたようなリーセリットの声がエランの後方から飛んでくる。その声にエランは上着から端末を取り出し、現在地と目的地を照らし合わせた。このペースを落とさなければあともう少しと言った所だろうか。
「もう少しだよ。お嬢様には険しい道は厳しかったかな?」
幾ら装備を整えてしっかりとした山岳用ブーツを履いているとは言え、宇宙で過ごしていた彼女にとっては少し足場の悪い山道も険しい登山並みに厳しいのだろう。敢えて煽るように言えば想像通りリーセリットはムッと眉根を寄せ、寧ろペースを上げてきた。
「私のっ、フィジカル、舐めないで……よねっ!」
ゼイゼイと息を切らしながらもエランの後をしっかりついて来る。本当に負けず嫌いで勝ち気だなとエランは笑い、端末を上着に戻した。
そうして十分も歩いた頃だろうか。次第に森が拓け、山道の勾配は緩くなって来る。
「つ、着いた~~!」
頂上に到着するなりリーセリットは背負っていた荷物を置き、その場に座り込んだ。荷物から水筒を取り出して水分補給している間、エランは赤い手帳を取り出してパラパラと捲り、確かめるように周囲を見渡している。
ああ、とエランが呟く。
「リーセリット、こっちだ」
「あった?」
差し出されたエランの手を拒む事なく受け入れてリーセリットは立ち上がる。そのまま手を繋いでエランの先導で歩けば崖の縁に案内された。
縁に立った瞬間、一際強い風が吹いてきてリーセリットは目を瞑る。そうして目を開けた時――飛び込んで来た景色は、言葉を失う程美しかった。
広がる森林と、その中に浮かぶ真っ青で広大な湖。その水面に反射する、少し黄色みを帯びてきた太陽光。宇宙で暮らしていたら絶対に見られない光景がそこに広がっていて。
「これが、ノレア・デュノクの見た景色……」
リーセリットが握られた手に力を込める。強張ったようにエランの方も強く握り返してきた。
彼女との面識はほぼ無い。せいぜいテロ事件が起きる前に地球寮で少し会話した程度だろうか。だから彼女の人となりは隣に居るエランの方が詳しい筈だ。
「この景色、4号に見せたいと思ったんじゃない?」
からかうような声が隣から降ってくる。フンとリーセリットは鼻を鳴らす。
「あんただって、ノレアと一緒に見たかったんじゃないの」
「……まぁね。否定はしないさ」
「私も一緒」
でも、とリーセリットは続ける。
「……あんたとこうして見に来れたのも、悪くないと思ってるんだからね」
呟けば、驚いたように目を開いてエランはリーセリットを見下ろす。それが少し愉快で、目を合わせたリーセリットは勝ち誇ったように口角を上げた。
別にエランへの恋心を捨てた訳ではない。今も好きかと言われれば頷くし、この景色を一緒に見れたらなと思った事だって本心だ。
だけど、エランの隣が心地良いと感じるのも事実だ。そして向こうも、恐らく同じような事を思っている。
『誰か』が欠けた者同士が、世界の片隅で寄り添い合う。傷の舐め合いだと一笑に付されればそれまでだが――それでも握られた手の温度は確かなもので、誰に何と言われても離し難かった。
はあ、とエランが長い溜息を吐く。それからフイと顔を背け、
「……いい性格してきたよね、君」
「さぁ~? 誰かさんには負けるけどね~」
そうしていつも通りのやり取りが始まる。
握られた手は、どちらも振り解かないでいた。