福音はもうすぐそこまで
コールガールの続き
「「アズール!!!!」」
「ルキナとクロエ、どうし、うわ!?」
訓練を終え、立ち並んでいる天幕の間を歩いていた時だった。
呼び止められたと思ったらルキナには抜刀されたファルシオンを向けられ、クロエには胸倉を掴まれる。それも何処か鬼気迫る表情でだ。彼女らをこんなにも怒らせる理由が分からずアズールは只々困惑する。
「ふ、二人共!? 何でそんなに怒ってるの!? ほ、ほら、女の子なんだから眉間に皺を寄せたりなんかしないで笑顔浮かべないと……」
「アズール貴方……この後に及んでまだシラを切るつもりですか?」
「えぇっ!?」
「証拠は上がってるんだからね! アズールが、アズールが……!」
「ぼ、僕が?」
ゴクリ、と息を飲んで次の言葉を待つ。
「アズールが……母様とお茶したってのは分かってるんだからね!!」
「お茶……? ああ!」
そう言えばつい先日、ヒンメルの手伝いをしたらお茶とお菓子を貰って食べた事があった。だがヒンメルはお茶を飲んでさっさと出て行ってしまうし、残ったクッキーを投げて寄越してきたしで正確に「一緒にお茶を楽しんだ」とは言えないと思うが。
只それを説明したところで目の前にいる姉妹に正しく理解してもらえるとは何だか思えない。
「えっと、確かに僕からお茶誘ったんだけど別にカフェとかで一緒にお茶したわけじゃないんだよ? ヒンメルさんの手伝いをしたらお茶とお菓子くれて、でもヒンメルさんすぐ輸送隊の馬車から出て行っちゃったし……」
「「問答無用!!」」
「うわああああっ!?」
ファルシオンの切っ先が喉スレスレまで近づき、胸倉を掴まれて身動きの取れないアズールは動けないなりに上体を反らしてファルシオンから逃れようとする。
「私だって、私だってお母様とお茶をご一緒した事無いのでお誘いしてるのに、いつもお仕事があるからと断られ……なのに貴方と来たら……!」
「買い物に誘っても「軍議があるから、また今度ね」なんて言われるし……」
つまるところ、先を越されて悔しいと。そう言う事なのだろう。
さて、どうするか。このままではルキナに続いて抜刀しそうな雰囲気のクロエに三枚卸しにさせられそうな勢いだ。
「あれ? クロエとルキナに、アズール? ……何やってんの」
「母様!」
「お母様!」
「ヒンメルさん!!」
「えっ? えっ? どうしたの本当に……」
クロムの天幕に行く途中だったのだろうか。書類の束を持ち、三人の状況について行けていない様子のヒンメル。
「取り敢えず……ルキナ、剣を下ろしなさい。クロエも」
「は、はい……」
「はーい……」
大人しくルキナはファルシオンを下ろし、クロエもアズールを解放する。
「で、何があったの?」
書類を近くにあった空き木箱の上に置いたヒンメルは腕を組んで話を聞く姿勢に。ルキナ達の言い分を聞いている内にどんどんヒンメルの表情が険しくなっていく。対比してどんどんと申し訳なさそうな表情になっていくクロエとルキナ。
話を聞き終わり、ヒンメルは重くため息を吐いた。
「……話はよーく分かった。アズール、ちょっと良い?」
「は、はい?」
突然名前を挙げられて必要以上にビクッとしながらアズールは前に進み出る。ドン、と手渡されたのは書類の山。
「クロムの天幕に居るフレデリクさんに渡しといてくれると助かるかな」
「え……っと。つまり……?」
アズールが困惑していると、ヒンメルはルキナとクロエの肩を掴んで引き寄せた。
「ちょっと最寄りの町でお茶してくるよ。クロムには何とか誤魔化しておいて」
「お母様……!」
「母様ー!」
「あー、もう、押さない押さない!」
アズールに向かって苦笑するヒンメルに両サイドから抱きつく姉妹。その微笑ましい光景を見送ってアズールは目当ての天幕まで赴いた。